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職人をクリエイターに! 社員と一緒に自社ブランドの立ち上げに挑戦するイノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(14)(1/3 ページ)

自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は、100年前から“火の道具”を作り続けてきた大阪市の田中文金属が、社員と一緒に育てている自社ブランドを紹介する。

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製品ではなく、新たなブランドを作りたい

 「パイロマスター」は、100年前に火バサミや什能(じゅうのう *1)など炭火器具の製造で創業した田中文金属が5年間かけて開発した新商品だ。

*1:什能=かまどの灰をかき出す小型スコップ。かつては一般家庭にもあった。


「100年間、国内生産にこだわり続けたメーカーとして、新たなブランドを立ち上げたい」と語る田中文金属 代表取締役 田中淳仁氏

 田中文金属 代表取締役 田中淳仁氏が取り出したのは、手のひらサイズの銀色に光るプレートだった。厚みはわずか22mm。重なっている部分を開くと、カチッと音を立てて3角柱になる。

「この展開したときの、カチっとハマる感覚にも拘りました」(田中氏)。

 見ただけでは、何に使うものか分からない人も多いだろう。これは、松ぼっくりや枯れ木、落ち葉などを燃料にするネーチャーストーブだ(以下の図)。


枯れ枝や松ぼっくりを燃料にするネーチャーストーブ「パイロマスター」。収納時は厚みわずか22mm(提供:田中文金属)

 アウトドアは、一時のブームでは終わらず趣味として定着した。週末に、アウトドアを楽しむ人も多い。パイロマスターは、1人で気ままに自然を楽しむソロキャンパーをターゲットにした商品だ。

 このパイロマスターは、コンパクトな設計ながら着火後数分で30cmの火柱を立てるほどの大きな火力を持つ。これは、2次燃焼構造を採用しているからだ。

 小枝や松ぼっくりが燃えるとき(1次燃焼)に出る白煙には、さまざまな可燃性物質が含まれている。この燃え残ったガスに、1次燃焼とは別経路で新鮮な空気を送り込み、再燃焼させることを「2次燃焼」という。2次燃焼を起こすためには、新鮮な空気と燃焼室を高温に保つことが重要なポイントになる。

 田中氏は、燃焼性に優れた高性能薪ストーブと保温性・断熱性に優れた七輪を手本としてパイロマスターを開発したという。側面を2層にし、理想的な空気の循環を作り効率的に燃焼させた。

 開発のきっかけは、取引先から「ロケットストーブを作りませんか」と依頼があったことだ。「長年、“火の道具”を製造している田中文金属さんならできるでしょう」と話を持ち込まれた。興味を持った田中氏は、燃焼や物理現象を研究し、ロケットストーブの試作を繰り返した。

 しかし製品化のめどが立った頃に、既に類似商品が販売されていることを知り「同じモノを作ってもつまらない」と取りやめた。

 そしてその基礎研究を生かして、何か面白いものを作りたいと開発したのがパイロマスターだ。「2層式ウッドストーブとしては世界最薄」と田中氏は胸を張る。

 2014年、DIYショーに参考出品したところ、評判がよかった。大手アウトドアメーカーのバイヤーからは「製品化したらぜひ連絡をください!」とも言われた。しかし、同社は翌年も同じ展示会に参考出品をしている。

 「製品ではなく、ブランドを作りたい」と、納得できるまで細部に拘ったらリリースできなかったという。


2次燃焼を起こす仕組み。薪ストーブと切り出し七輪を参考に設計したという。(提供:田中文金属)

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