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インタビュー

「安過ぎる竹」の現状を変えろ、竹箸メーカーの“サステナブル”モノづくり改革未来につなぐ中小製造業の在り方(1/2 ページ)

竹箸メーカーのヤマチクは、竹1本当たりの仕入れ価格をあえて「引き上げる」という興味深い目標を掲げている。その背景にあったのは、竹産業の担い手を取り巻く環境への強い課題意識だった。同社の専務取締役は「サステナブルな素材というイメージがある竹だが、今の状況ではまず人間の営みが続かない」と訴える。

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 日本人の食卓になじみ深い……どころか欠かせないと言っても過言ではない食器、それが箸である。安く手に入れやすい木箸を用いる機会も多いが、中には軽くて使いやすい竹箸を気に入り、使用している人もいるだろう。特に最近はSDGsに配慮したサステナブル製品の人気が高まっており、木材と比べて圧倒的に成長の早い竹材に注目する向きも多い。こうした中で、竹箸の需要も高まりつつあるように思われる。

 しかし、「竹を使うのはサステナブルだ」と安易に語ることには、慎重であるべきかもしれない。熊本県にある竹箸メーカーのヤマチクで専務取締役を務める山崎彰悟氏はこう語る。


ヤマチクの山崎氏 出所:ヤマチク

「よく、『竹の消費量が少なくなり山が荒れてしまっている。だから、竹の積極的な使用はSDGsの観点からも良い』という話を聞く。だが、実際には竹を切る『切子』の仕事が過酷な割に給料があまりに安いため、人材が減り、結果的に荒れ地になっているという背景もある。確かに竹はサステナブルな素材だ。ただし、素材がサステナブルでも、今の状況ではまず人間の営みが続かない」(山崎氏)

 こうした観点から、ヤマチクは「持続可能なモノづくり」をスローガンに、ある興味深い取り組みを発表した。同社が仕入れる竹の1本当たりの値段をKPI(重要業績評価指標)として設定し、2027年までに現在の800円から1200円まで引き上げることを目指すという。

 その狙いについて、山崎氏は「モノづくりにおける『仕入れ原価をできるだけ抑える』というセオリーからは外れる。しかし、モノづくりの中心にいる人間が我慢することなく働けるようにしたい」と説明する。

重心位置まで考え抜いた、軽く使いやすい竹箸

 ヤマチクは1963年の創業で、熊本県の南関町に工場を構えている。従業員は27人だ。創業以来、地域で切り出した竹材を使い、竹箸づくりを行ってきた。かつてはOEM事業を中心にビジネスを展開していたが、現在は2019年3月に立ち上げた自社ブランド「okaeri」が新たな事業の柱になりつつある。


okaeriの外観[クリックして拡大] 出所:ヤマチク

 okaeriは竹材特有の軽さと丈夫さを生かしつつ、独自の製造方法によって重心位置にまでこだわり、扱いやすさを高めたブランドである。持ち手は丸いが、箸先は四角になっており、料理をしっかりとつかみやすい。その使いやすさなどから、シェフなど料理のプロからも高い評価を得ている。男女関係なく使えるデザインとすることで、家庭に取り入れやすくすることも目指した。

箸の先端は細く四角いので料理をつかみやすく(左)、持ち手は丸く持ちやすい(右)[クリックして拡大] 出所:ヤマチク

「竹箸と木箸の重さの差は数g程度。しかし、竹箸は実際の重さよりも軽く感じられるので、手が不自由な人や子供でも持ちやすい。また、okaeriの場合は箸先が細く、滑り止めもないので料理の口当たりを邪魔しない。子供のかみ癖も助長せずに済む」(山崎氏)

 現在では木製の箸を目にすることも多いが、そもそも、かつて箸は竹で作られていたという話がある。ブランド名の「okaeri」には、こうした箸の文化的な原点に回帰しよう、という意味合いなども込められている。また、このokaeri以外にも、ヤマチクは「ポテトチップスのためのお箸」「納豆のためのお箸」など一風変わった商品も展開している。

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