ルノーと日産自動車、三菱自動車は2023年2月6日、アライアンスの新たな取り組みについて発表した。
ルノーと日産の取締役会での承認を経て取り組みが正式に決まった。具体的には、ラテンアメリカ、インド、欧州における車両のプラットフォームや商品の共有、アライアンス外のパートナーとの協業による技術開発の推進、出資比率やガバナンスの見直しに関する3つの領域だ。
ルノーと日産はこれらの取り組みに関して拘束力のある枠組み合意を締結し、2023年第1四半期末までに最終契約を締結する。最終契約に規定された取引は規制当局の承認を含む幾つかの条件を前提にしており、2023年第4四半期に完了する予定だ。
EVでの協力加速、3社での共通化率90%に
地域別の戦略を正式発表したが、日産が日米中をリードし、ルノーと三菱自が欧州やASEANで協力するという既存の協力関係は維持する。従来のアライアンスの枠組みよりも、柔軟性が増すとしている。
ラテンアメリカでは4つのプロジェクトを推進する。まずはルノーが開発する0.5トンのピックアップトラックを、アルゼンチンで日産に供給する。1トンピックアップの日産「フロンティア」とルノー「アラスカン」の協業プロジェクトは継続し、今後もルノーがアルゼンチンのコルドバでルノーと日産の両方に向けて生産する。さらに、メキシコでは日産が20年ぶりにルノー向けに新型車を生産する。
インドでは、ルノーと日産はインド国内市場と輸出向けに複数の新型車プロジェクトで協力を検討する。新型SUVや、ルノー「トライバー」から派生する日産の新型車などを想定している。
ラテンアメリカとインドでは、コモンモジュールファミリー「CMF-AEV」プラットフォームをベースとしたAセグメントのEV(電気自動車)を投入する。ラテンアメリカではEV2車種を予定している。
欧州では、ルノーの「キャプチャー」「クリオ」の資産を活用するとともにコモンモジュールファミリー「CMF-B」プラットフォームをベースに、三菱自が「ASX」「コルト」を開発、トルコで生産する。また、ルノーは2026年に同社初となるソフトウェアデファインドビークル(SDV)「FlexEVan」を投入予定で、これを欧州で日産にも供給する。三菱自もルノーが先行するというソフトウェアデファインドビークルの恩恵を受けるという。
2026年以降のラインアップに関しては、日産とルノーはCセグメントの次世代EVにおける協業の可能性を検討する。充電時間の短縮に向けて電圧800Vのアーキテクチャを共通して採用するなど、欧州向け商品での技術を共有する。2026年からフランスにあるルノーの電動車生産拠点で製造するコモンモジュールファミリー「CMF-BEV」プラットフォームをベースにしたBセグメントのEVなど、既存のプロジェクトとともに推進する。
現在、ルノー日産三菱の製品の60%でプラットフォームや部品の共通化が進んでいる。これを2026年までに最大80%に引き上げ、EVでは共通化率を90%とすることを目指す。ルノーが投入予定のEV「5(サンク) エレクトリック」によって、日産はEVのコストを40%削減することができるとしており、ルノーも日産のEV戦略に貢献するとしている。
主要な市場での共用店舗増加、物流ネットワークの協業、中古車やアフターセールス、販売金融などでの共通戦略の策定などでも協業を検討する。充電インフラについては、欧州のルノーと日産の販売店で共同で整備していく。使用済みバッテリーと生産廃棄物のリサイクルについては、共通のパートナーを選定する。
「既存の知的財産に関する議論の大部分は将来につながらない」
日産は、ルノーが設立するEVとソフトウェアの新会社アンペアに最大15%を出資する。出資だけでなく、新会社で創造する価値を取り入れて活用していくという。「協業するしかない、独自ではできない」(ルノー CEOのルカ・デメオ氏)という領域でもあり、アンペアの成果を受けて日産が出資比率をさらに引き上げることもルノーは期待している。ルノーは50%の出資を将来も維持する。これにより、日産の欧州市場強化と、新規事業の加速が期待されるとしている。三菱自もアンペアへの参画を検討するという。
知的財産については、ルノー側は必要なものにアクセスできる形でプロジェクトが推進できるようにしていきたい考えだ。また、既存の知的財産に関する議論の大部分は将来の知的財産にはつながらないとルノー側は述べている。
内燃機関やハイブリッドシステムに関しては、ルノーと吉利汽車(Geely)とジーリーホールディング(Geely Holding)が取り組む「Horseプロジェクト」で日産と三菱自が顧客となる見通しだ。なお、ジーリーはアンペアに資本参加しないと明言した。
全固体電池、ソフトウェアデファインドビークル、ADAS(先進運転支援システム)、自動運転など、既存の技術分野における協業も推進する。
対等な関係の実現へ
ルノーと日産は、出資比率とガバナンスの条件に付いてバランスを見直すことに合意した。両社の新たなアライアンス契約は2023年3月31日までに締結予定で、従来のアライアンス関連の契約と置き換えになる。新たなアライアンスの契約有効期間は15年間となる予定だ。
ルノーと日産は相互に15%を出資し、ルノーは日産の株式28.4%をフランスの信託会社に信託する。信託される日産の株式に付随する議決権は、ルノーや日産の取締役会が推薦する日産の取締役の選任や解任、日産の取締役会が支持しない株主提案を除いて中立的に行使する。
日産の株式28.4%が信託されることに伴い、日産が保有するルノーの株式に付随する議決権が行使可能となるルノーと日産、双方の議決権行使の上限は行使可能な議決権の15%で、両社はこの範囲内で自由に議決権の行使できる。
ルノーは、同社にとって商慣習上合理的な場合、信託会社に信託した日産株式の売却を指示するが、特定の期間内に売却する義務は負わない。ルノーは日産と協調的で秩序あるプロセスにおいて自由に信託内の日産株式を売却できるが、日産は筆頭の売却候補として、直接もしくは第三者を通じて優先的な地位を持つ。
新たな取り決めに伴い、ルノーとフランス政府との間で2016年2月4日に締結されたガバナンス契約が解消される。これにより、フランス政府はルノーにおける議決権を自由に行使することが可能となる。
引き続き、ルノーは日産の取締役会において2人を、日産はルノーの取締役会において2人を推薦する権利を持つ。アライアンスオペレーティングボード(AOB)は、ルノー、日産、三菱自の調整の場として存続する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ルノーのEV新会社に日産も出資、ソフトウェアデファインドビークルの開発加速
日産自動車とルノーグループはアライアンスに関する声明を発表した。今後開催予定の取締役会での承認が必要になるが「協議が重要なマイルストーンを迎えた」としている。 - ルノーがCASE対応で新たな動き、EV、ソフトウェア、その他パワトレは新会社に
ルノーグループは2022年11月8日、投資家向けに説明会を開き、営業利益率を2025年に8%以上、2030年までに10%以上に高める事業計画を発表した。 - ボルボ、ルノー……中国ジーリーに集まる欧州のエンジン技術
ボルボ(Volvo Cars)は2022年11月8日、内燃機関の開発と製造を完全に終了すると発表した。 - 日産は半固体ではなく「全固体」電池、懸念される低寿命をNASAや大学と克服
日産自動車は2022年4月8日、2028年度の実用化を目指す全固体電池の開発状況を発表した。 - 2023年春から鋼材とアルミ板材のCO2を大幅削減、日産と神戸製鋼
日産自動車と神戸製鋼所は2022年12月19日、製造時のCO2排出量を大幅に削減した鋼材やアルミ板材の採用を開始すると発表した。これまで日産が神戸製鋼から調達していた材料が、2023年1月から低CO2排出のものに切り替わる。 - 使用済みモーターからのレアアース回収時間を半減、日産と早稲田大学
日産自動車と早稲田大学は2021年9月3日、電動車のモーター用磁石からレアアース化合物を効率的に回収するリサイクル技術を開発したと発表した。従来は手作業でモーターを分解して磁石を取り出すため、まとまった個数の処理には時間がかかっていた。開発技術では、作業時間を50%削減できる。 - 日産が新車生産で発生したアルミ端材をリサイクル、新車向けの部材で再出荷へ
日産自動車は2021年1月22日、グローバルモデルでアルミニウム製部品のクローズドループリサイクルプロセスを初めて適用すると発表した。同プロセスは、生産時に発生した廃棄物やスクラップ、回収した自社の使用済み製品を、品質を維持した材料として再生し、自社製品の部品に採用する手法だ。 - 発電専用だけど可変圧縮比でターボ、欧州で受け入れられる「e-POWER」のために
日産自動車は2022年7月20日、SUV「エクストレイル」をフルモデルチェンジして発表した。 - 日産がLiDAR採用の運転支援技術、2段階の衝突回避で複雑な場面に対応
日産自動車は2022年4月25日、障害物や車両との衝突を緊急回避するための次世代センシング技術を発表した。障害物を操舵アシストで回避した後に歩行者を検知してブレーキを制御するというように、2段階での緊急回避を実現する。この運転支援技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション」は技術開発を2020年代半ばまでに完了させ、新型車に順次搭載する。