スズキが進めるインドの脱炭素、EVだけでなく「3億頭の牛」とともに:電動化(2/2 ページ)
スズキは2030年度に向けた成長戦略を発表した。各国政府が掲げるカーボンニュートラルの達成目標時期に基づいて、製品、製造、バイオガスなどの領域で取り組みを進める。
EVだけでは難しい、インドのCO2排出削減
インドでのバイオガス事業もカーボンニュートラル戦略の重要な柱となる。インドの自動車市場は今後も成長が見込まれているが、1台当たりのCO2排出削減に取り組んでも台数増加によって自動車全体の総排出量が増えていくことが避けられないとみられる。
インドでシェア50%以上を目指すスズキは、販売台数の拡大とCO2総排出量の削減を両立することに挑戦する。電力事情などからEVのみでCO2排出削減が難しいことを踏まえて、バイオガス燃料の製造と供給に取り組む。
鈴木氏によれば、インドには3億頭の牛がいるという(世界トップクラスの規模。これに対し日本は乳用牛と肉用牛の合計で約400万頭)。10頭の牛から回収できる1日分の排せつ物でクルマ1台が1日に走る燃料を製造できるとし、「インドに合わせたカーボンニュートラルを目指すソリューション」になると期待を寄せる。
バイオガスに関する具体的な取り組みも進んでいる。2022年8月にはインド政府関係機関である全国酪農開発機構と覚書を締結。また、同年12月にはアジア最大の乳業メーカーBanas Diaryとスズキ、全国酪農開発機構の3者で、2024年半ばからバイオガス生産の実証事業を開始することで合意した。インド グジャラート州バナスカンタ地域において、1日1500kgのバイオガスを生産する計画だ。500台のCNG車が1日に走行するのに必要な燃料に相当する。
2022年10月には牛糞を原料としたバイオガス発電を日本で手掛ける富士山朝霧Biomassに出資し、知見の蓄積を始めた。
自動車のカーボンニュートラルだけでなく、経済成長にも貢献すると位置付けて取り組む。2040年までにインドの原油輸入依存度は92%に上ると予測されており、インド政府もエネルギーの自立化を目指している。将来的には、アフリカやASEAN、日本の酪農地域などにも展開することを視野に入れている。
二輪車や船外機も電動化
二輪車は、2024年度に小型と中型でEVを投入する。2030年度までにEV8モデルを投入し、EV比率は25%と計画している。趣味性の高い大型二輪車はカーボンニュートラル燃料の適用を検討中だ。
船外機は、2024年度にエンジンを使わないフル電動タイプを投入する。湖沼や河川で使われる小型船外機が対象となる。2030年度までにフル電動の船外機5モデルを展開し、その販売比率は5%と見込んでいる。海洋で使われる大型船外機は、カーボンニュートラル燃料での脱炭素化を進める。
セニアカーをはじめとする小さな電動モビリティに関しても、ニーズの多様化や環境の変化を捉えながら生活を支える移動手段への挑戦を継続する。
工場のカーボンニュートラルも
生産に関しては、2035年度に国内全工場のカーボンニュートラルを達成したい考えだ。省エネルギー化と再生可能エネルギーの活用、カーボンオフセットなどを組み合わせて達成する。
湖西工場(静岡県湖西市)では、塗装設備の刷新や塗装技術の向上によってエネルギー消費を効率化/最適化し、塗装工程のCO2排出量を30%削減する。また、太陽光発電などの再生可能エネルギーから水素を製造して荷役運搬車両を走らせる実証実験も2022年末から実施している。
二輪車を生産する浜松工場(静岡県浜松市)は2030年度にカーボンニュートラルを達成する計画だったが、エネルギー使用量の削減や太陽光発電設備の増設などによって前倒しして2027年度にカーボンニュートラルを達成できる見通しだ。浜松工場のノウハウを他の工場に展開しながら2035年度の国内全工場のカーボンニュートラル達成を目指す。
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