適応度地形から微生物の薬剤耐性進化を予測、制御する手法を開発:医療技術ニュース
東京大学は、ロボットを用いて大腸菌の進化実験を自動化し、その実験データから薬剤耐性進化を予測、制御する手法を開発した。
東京大学は2022年12月14日、ロボットを用いて大腸菌の進化実験を自動化し、その実験データから薬剤耐性進化を予測、制御する手法を開発したと発表した。理化学研究所、北海道大学との共同研究による成果だ。
微生物の進化実験は、薬剤を添加した環境で微生物を植え継ぎ、遺伝子への突然変異の蓄積と選択を繰り返すことで、進化の過程を再現する手法だ。今回の実験では、自動化ロボットを用いて進化実験をハイスループット化している。
また、遺伝子型や表現型などの状態変数を座標とし、座標の高さを適用度として表す「適応度地形」は、着目した遺伝子について、進化の過程でどのような変異が入りやすいかの予測に利用できる。
研究グループは、進化の過程において遺伝子型に比べて変化のパターンが少ない表現型に着目し、表現型と薬剤への適応度を対応させた適応度地形を構築した。その結果、適応度地形から表現型変化と薬剤への適応度変化を予測できること、適応度地形が進化によって生じる遺伝子型の変化にも対応していることが示された。
さらに、各薬剤を添加した際、適応度地形から次にどのような表現型が選択されやすいかが分かることから、適応度地形と表現型変化のモニタリングを組み合わせることで、薬剤耐性進化を制御する新手法を考案した。例えば、複数の抗生物質を順番に添加することで、大腸菌の表現型がサイクルを描くように進化を制御できることがシミュレーションで示唆された。
今回開発した手法は、他の多様な生物種の進化を予測、制御するのに役立つ。今後、適応度地形の精度を高めて、病原菌が抗生物質耐性を獲得するのを抑制したり、工学、農学分野で微生物を育種するなどの応用が期待される。
抗生物質が効かない耐性菌が世界的な問題となっている中で、病原菌の進化を予測、制御できる技術開発が求められている。しかし、進化に関わる遺伝子は膨大なため、遺伝型を基にした進化の予測はこれまで難しいとされてきた。
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