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医薬品候補分子の生体内移動を可視化する手法を開発医療技術ニュース

京都大学は、医学や生理学分野で用いる「ホルマリン組織固定」の原理を拡張し、マウス脳内の小分子の分布を可視化する「FixEL法」を開発した。医薬品の候補となる小分子の動きを固定し、生体内での移動とタンパク質への結合を画像化できる。

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 京都大学は2022年12月5日、医学や生理学分野で用いる「ホルマリン組織固定」の原理を拡張し、マウス脳内の小分子の分布を可視化する「FixEL法」を開発したと発表した。医薬品の候補となる小分子の動きを固定することで、小分子の生体内移動とタンパク質への結合を高い解像度で画像化できる。

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分子の動きを固定して調べる新技術[クリックで拡大] 出所:京都大学

 治療薬や診断薬にはさまざまな小分子が用いられるが、体内で疾患に関係するタンパク質と結合することで、機能を発揮する。そのため医薬品の開発には、小分子が体内のどこへ移動し、どのタンパク質と結合するかなどを調べる必要がある。

 今回の研究では、ホルマリン漬けに使用するPFA(パラホルムアルデヒド)に着目。アミノ基と蛍光色素を連結させた小分子をマウスに投与後、PFAを全身に処理することで、組織の固定と同時に蛍光色素を固定し、その瞬間の小分子の体内位置をμmの解像度で可視化した。

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(A)観察したい小分子へのアミノ基導入。(B)アミノ基とPFAとの結合を利用した小分子の体内への固定[クリックで拡大] 出所:京都大学

 実際に、FixEL法によって小分子の分布を画像化できるか調べるため、脳に存在するmGlu1(代謝型グルタミン受容体1)と結合する小分子のmGlu1リガンドを標的として実験した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて、分子を固定した脳組織を観察したところ、mGlu1が豊富に存在する小脳分子層で蛍光が検出できた。

 より高倍率で観察すると、粒状の蛍光シグナルが小脳分子層に集まっていることが分かった。このシグナルは、mGlu1の分布と一致することも確認した。これらのことから、生きたマウスの脳内で特定のタンパク質に標的小分子が結合しており、その様子をFixEL法で高解像度に解析できることが示された。

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(A)mGlu1リガンドをFixEL法で固定したマウス小脳の蛍光観察画像。(B)小脳分子層を拡大した観察結果。(C)Bと同じ領域のmGlu1タンパク質分布。(D)BとCの画像の重ね合わせ。白いほど、よく分布が一致している[クリックで拡大] 出所:京都大学

 FixEL法ではPFAを処理する瞬間に小分子の位置が固定されるため、複数のマウスに異なるタイミングでPFA処理し、標的小分子の体内移動を調査した。その結果、それぞれのマウスで異なる蛍光分布が見られ、mGlu1がどのように脳内を移動しているかを経時的に捉えることができた。

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(A)小分子の体内分布の時間変化を調べる実験の手順。(B)mGlu1リガンドを投与したマウスの全脳スライス蛍光観察画像。投与からそれぞれ30分、6時間、24時間後にPFAで固定処理した。(C)小脳の一部を拡大した蛍光観察画像。mGlu1リガンドの投与から30分〜6時間後にPFA処理した。(D)Cの画像上の矢印上の蛍光シグナル強度をグラフ化したもの。30分や1時間の時点で、小脳分子層の中でも特に脳脊髄液に触れている領域の蛍光シグナル強度が高い。これはmGlu1リガンドが脳脊髄液側から小脳分子層へ浸透していることを反映している[クリックで拡大] 出所:京都大学

 また、mGlu1リガンド以外にも、医薬品として使用中の小分子や新タイプの医薬品として期待される小型抗体が同様の原理で画像化できることを確認。さらに、化学的に組織を透明化する技術により、組織を薄切りにすることなく、小分子の組織内での位置を3次元的に捉えることに成功した。

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(A)透明化処理したマウスの全脳。(B)mGlu1リガンドのマウス全脳3D分布。(C)小脳のみ拡大した3D分布[クリックで拡大] 出所:京都大学

 医薬品の候補となる分子の多くは、分子量が500以下の小分子だ。小分子の組織内での分布を詳細に解析することで、医薬品や診断薬の効率的な開発が期待される。

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