難治性前立腺がんのアルファ線治療に使用する放射性リガンドを開発:医療技術ニュース
大阪大学は、前立腺がんのアルファ線治療を目的とした放射性リガンドを開発し、マウスを用いた実験で腫瘍の縮小効果が長期間持続することを確認した。難治性前立腺がんに対する医師主導治験の開始を準備している。
大阪大学は2022年11月14日、前立腺がんのアルファ線治療を目的とした新たな放射性リガンドを開発し、マウスを用いた実験で腫瘍の縮小効果が長期間持続することを確認したと発表した。現在、非臨床試験を進めており、2024年度の難治性前立腺がんに対する医師主導治験の開始を目指している。
開発した放射性リガンド「アスタチン標識PSMAリガンド([At-211]PSMA5)」は、多くの前立腺がんに発現するPSMA(前立腺特異的膜抗原)を標的としたもので、PSMAと結合する化合物をアルファ線放出核種のアスタチンで標識して作製する。体内で前立前がんに選択的に高集積し、アルファ線を放出することでがん細胞を破壊するメカニズムだ。
開発したアルファ線治療用放射性リガンドを、前立腺がんのモデルマウスに静脈内投与したところ、腫瘍に高く集積し、長期間にわたり腫瘍縮小効果が持続することを確認した。
PSMAは、手術後の再発に対するホルモン療法にも抵抗性を示す難治性前立腺がんでも発現しており、全身に多発転移を認める場合でも有効な治療法となる可能性がある。
近年、狙った標的ごとに標識核種を変えることで、画像診断から核医学治療までを一貫して実施するセラノティクスが注目されている。海外ではベータ線治療の開発が進められているが、アスタチンは国内でも製造可能で、ベータ線よりも高いエネルギーを放出するアルファ線の各種であることから、大阪大学はアスタチンを利用したアルファ線治療に取り組んでいる。
大阪大学では、既にアスタチン化ナトリウムを用いた難治性甲状腺がんの医師主導治験を開始しており、2年以内に難治性前立腺がんに対しても医師主導治験を開始したいとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 富士フイルムが米国に培地の生産拠点新設、約260億円を投資し2025年に稼働予定
富士フイルムは、子会社のFUJIFILM Irvine Scientificに約260億円を投資し、米国のノースカロライナ州に培地の生産拠点を新設する。同拠点を含む世界5拠点のグローバル生産体制により、バイオ医薬品の研究開発や製造を支援する。 - ネズミも音楽のビートに合わせて体を動かすことを発見
東京大学は、人間がビートを取りやすい120〜140BPMの音楽で、ラットも体を動かすことを発見した。また、原曲のテンポに対して、ラットの脳活動もビート同期することが分かった。 - AIとRFIDを活用した次世代医療サプライチェーンの実証試験を開始
帝人とアルムは共同で、脳血管内治療計画プログラムと電子タグシステムを活用した、次世代医療サプライチェーンの実証試験を開始した。正確な在庫管理が可能になることで、医療資源のロス削減を目指す。 - AIを活用し、子宮肉腫と子宮筋腫を識別する画像診断システムを開発
東京大学医学部附属病院は、MRI画像から子宮肉腫を識別する術前画像診断システムを開発した。深層学習を活用した子宮肉腫と子宮筋腫の判別システムで、放射線科専門医の診断に匹敵する正診率を得られた。 - 100km以上離れた拠点間での遠隔手術を可能にする実証実験を開始
日本電信電話とメディカロイドは、手術支援ロボット「hinotoriサージカルロボットシステム」とIOWNオールフォトニクスネットワークを接続し、離れた拠点間を1つの手術室のように統合して環境共有する実証実験を開始した。 - 胸部X線画像の連続撮像で簡便かつ低被ばくに肺塞栓症を診断するシステム
九州大学は、胸部X線動態撮影を用いて、簡便かつ低被ばく線量で肺塞栓症を診断するシステムを開発し、慢性血栓塞栓性肺高血圧症を高精度に検出できることを明らかにした。