赤外/ラマンの1台2役、世界で唯一の顕微鏡で島津製作所がラマン事業に参入:FAニュース
島津製作所は2022年11月16日、赤外分光法とラマン分光法を1台の顕微鏡で実現した赤外ラマン顕微鏡「AIRsight」を同日より国内外で販売すると発表した。普及機種としては、赤外分光法とラマン分光法という2つの分析手法を1台で行う世界で唯一の顕微鏡システムだという。
島津製作所は2022年11月16日、赤外分光法とラマン分光法を1台の顕微鏡で実現した赤外ラマン顕微鏡「AIRsight」を同日より国内外で販売すると発表した。普及機種としては、赤外分光法とラマン分光法という2つの分析手法を1台で行う世界で唯一の顕微鏡システムだという。AIRsightの使用には同社のフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)との接続が必要で、「IRTracer」「IRXross」「IRAffinity」の3機種が対応。価格は「AIRsight」単体が2650万円から、IRXrossとのセットで3200万円から(いずれも税抜き)となっている。AIRsightとFT-IRのセットとしてグローバルで年間100台の販売、20億円の売上高を目指す。販売の内訳は日本50台、海外50台としている。
高い成長率が見込まれるラマン市場に参入
赤外分光法は物質に赤外線を照射し、どの波長(波数)でどれくらいの光が吸収されるかを測定し、物質を特定する。一方、ラマン分光法は、ある波長のレーザー光を物質に照射して、散乱される光を測定して物質を特定する。赤外分光法による赤外顕微鏡は微小異物の分析などに用いられ、ラマン分光法を基にしたラマン顕微鏡は、赤外顕微鏡では分析できない極微小異物の分析や水溶液中の薬剤の測定などを強みとしているが、歴史が浅く赤外顕微鏡に比べて物質のデータベースが少ないなど、それぞれの長所と短所がある。
島津製作所は1990年からフーリエ変換赤外分光光度計を販売してきたが、ラマン顕微鏡に関してはこれまで自社製品を開発してこなかった。ただ、米国の調査会社SDIによると、2021年に4億9400万ドル(約692億円)だったラマン分光法を基にした装置の市場規模は、2026年には6億8500万ドル(約960億円)と年6.8%の高い成長が見込まれている。
同日に島津製作所本社(京都府京都市)およびオンラインで行われた記者会見で島津製作所 分析計測事業部 スペクトロビジネスユニット プロダクトマネジャーの村上幸雄氏は「分光装置全体の市場成長率はラマン分光装置の半分ほどだ。ラマン分光装置は市場規模が大きく、今後も成長が見込まれている。今まで参入していないビジネスでありながらも、魅力的な市場であることが参入を決めた理由だ」と語った。
その上で今回の1台で2役を担うAIRsight開発に関して、村上氏は「ラマン分光法を基にした装置は既にさまざまなメーカーが出している。他社がこれまで手掛けておらず、今後ニーズが増えてくるであろう点にフォーカスしてラマン事業に参入したいと考えた結果」と述べた。
参入を見据えて数年前から同社の基盤技術研究所で研究開発を行ってきたという。島津製作所 分析計測事業部 スペクトロビジネスユニット ビジネスユニット長の中川利久氏は「ラマン分光器を性能を落とさずに小型化して赤外顕微鏡に入れることが難しかった」と振り返る。
試料を動かすことなく2つの測定が可能
AIRsightのAIRはAutomatic Infrared Ramanの略で、製品の特長は大きく3つある。まず試料を動かすことなく、同一微小箇所を赤外/ラマン分光法それぞれで測定できる。これまで2機種を使用した分析時に必要だった、測定部位を探す時間がなくなる。
独自の広視野カメラと赤外用顕微カメラ、ラマン用対物レンズを搭載しており、広視野カメラでは最大10×13mmまで観察でき、可変デジタルズームにも対応する。さらに赤外用顕微カメラおよびラマン用対物レンズと位置情報を共有することで、観察対象を外すことがなくなる。赤外用顕微カメラでは最小30×40μm、ラマン用100倍対物レンズでは最小7.5×10μmの視野まで観察可能だ。
また、赤外とラマンは1つのソフトウェア「AMsolution」で測定、解析まででき、切り替えも容易など高い操作性を持つ。さらに、AMsolutionでは計測したい始点と終点をクリックするだけで、対象物の長さを画面上に表示する。計測した長さはレポートとして出力でき、マイクロプラスチックの粒子径計測にも有用だ。
有機物分析を得意とする赤外顕微鏡と、有機物に加え酸化チタンやカーボンなどの無機物情報を得られるラマン顕微鏡を組み合わせたことで、有機物も無期物も1台で測定可能となった。通常2台必要となる設置スペースが1台分となり、省スペースにもなる。
異物検査を行う食品や製薬関連企業、各地域にある工業技術センターや工業試験場、大学などへの導入を目指す。村上氏は「AIRsightはこれまで世の中になかった装置だ。新しいマーケットを作り出し、そのマーケットをわれわれがリーダーとして先導して、世界を引っ張っていきたい」と意気込む。
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