細胞がモノづくりする「スマートセルインダストリー」、島津と神戸大が実証開始:研究開発の最前線(1/2 ページ)
島津製作所と神戸大学は、先端バイオ工学を用いて人工的に遺伝子を変化させた細胞「スマートセル」によって、医薬品や食品、新素材、石油化学製品代替素材などの量産を可能にする「スマートセルインダストリー」に向けて、ロボットとデジタル技術、AIなどを活用した自律型実験システムのプロトタイプの有用性検証を開始した。
島津製作所と神戸大学は2021年12月10日、オンラインで会見を開き、「スマートセルインダストリー」の実現を可能にするロボットとデジタル技術、AI(人工知能)などを活用した自律型実験システム(Autonomous Lab)のプロトタイプの有用性検証を開始したと発表した。スマートセルインダストリーでは、先端バイオ工学を用いて人工的に遺伝子を変化させた細胞「スマートセル」によって、医薬品や食品、新素材、石油化学製品代替素材などの量産が可能になるが、新たなスマートセルの開発や大量生産に道筋をつける実験デザインは非常に複雑であり生産工程の最適化に時間がかかっていた。今回発表した自律型実験システムにより、効率的に実験を進められるようにする。
島津製作所と神戸大学 先端バイオ工学研究センター 教授の蓮沼誠久氏は、2018年度から3カ年にわたり「スマートセル」の研究に共同で取り組んできた。自律型実験システムのプロトタイプはその成果が基になっており、神戸大学統合研究拠点内のバイオファウンドリー実験室(神戸市中央区)内に構築された。
同プロトタイプの特徴は4つある。1つ目は「世界初となるロボット対応液体クロマトグラフ」である。島津製作所は、スカラ型ロボット(水平多関節ロボット)による検体プレートの移動に対応する機構を備えた液体クロマトグラフ(LC)を開発済み。このスカラ型ロボットの導入によって、従来は手作業で行う必要があったLCへのプレートの設置、交換を自動化できる。また、LC内部の温度に影響を与えないスムーズな移動も行えるという。
2つ目は「ビジュアルプログラミングによる簡便な実験プロトコルの設計」だ。専用の管理アプリは実験全体の流れを視覚的に表現しており、クラウド経由で手順を指示する際も直感的かつ簡便な操作が可能。複雑なプログラミング言語の入力が不要なノーコード開発プラットフォームとなっている。
3つ目は「実験の立案から結果の管理までを統合管理」になる。実験プロトコルの設計に用いる専用アプリが、検体ごとに使用した容器、装置、試薬、分析手法、実験結果などをデータベースで管理するため、高いトレーサビリティーを実現する。実験に関わる全データをアプリで解析、閲覧できるという。
そして4つ目の「実験結果から新たな実験条件を立案するAI」は、未知の関数を推定する機械学習の手法であるベイズ最適化などを用いて、実験結果から次の実験条件を立案する。これによって、研究者の勘や経験によらない、効率的な研究が可能になる。
なお、自律型実験システムのプロトタイプにおける生産工程は以下のような流れになっている。まずは、実験プロトコルを設計し、この内容に基づいて、スマートセルとなる細胞によって目的の物質を生産するのに必要な培地の調整を行う。プロトタイプでは、この作業は人手で行っている。次に、振とう培養器でスマートセルによる物質生産を行う。一定の時間を経て物質生産が完了したら、遠心分離機や液体分注機による前処理を経て、吸光度・濁度測定器、質量分析計、そしてロボット対応LCによる分析でスマートセルの生産性評価を行う。なお、これらの各工程はサンプル搬送用ロボットで接続されているので、培地調整の作業を除けば自動化できていることになる。
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