検索
連載

製造業は本当に「日本の稼ぎ頭」なの? 実力値をデータで確かめよう小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(1)(2/2 ページ)

ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。第1回では、国内産業の稼ぎ頭と言われる製造業の「実力値」を確かめます。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

産業の稼ぎ頭は工業!

 ここまでの話をまとめると、日本の製造業はGDP創出に最も貢献している業種と言えると思います。さらに、世界的に見れば、比較的多くの労働者を雇用している方だということも分かるでしょう。

 産業別の生産性や給与水準の可視化によって、産業における製造業の立ち位置をもう少し詳しく見てみましょう。図3は1人当たりの付加価値、つまり生産性を表す指標と平均給与について、産業別の相関図を作ったものです。


■図3 日本の産業別1人あたり付加価値、平均給与、労働者数[クリックして拡大] 出所:OECDの「Gross domestic product」と「Population and employment by main activity」を基に筆者作成

 バブルの大きさは、各産業の労働者数を表します。1人当たり付加価値は、各産業のGDPを労働者数で割った数値です。1年間に労働者1人でどれだけの付加価値を生み出したかという、生産性を表す指標になります。

 まず注目したいのが、各産業が表上でほぼ一列に並んでいることです。ここから生産性と平均給与には正の相関があると言えます。正の相関があるというのは、どちらかが増えれば、もう一方も増えるような関係を意味します。つまり、生産性の高い産業は、基本的には給与水準も高いということです。

 産業別に見ると、金融業と情報通信業が飛び抜けて高い位置にあります。この2つは「稼げる産業」と言えますが、バブルの大きさからも分かる通り、労働者数が非常に少なくなっています。「エリート産業」とも呼べる立ち位置ですね。

 そして、この2つの産業の次に高い位置にあるのが、工業です。実は、他の主要国でもこの傾向は同様で、情報通信業や金融業に次ぐ位置にあります。しかも、これら2つの産業と異なり、工業は労働者数も多い点が特徴です。

 このように、産業別に見た場合、製造業(≒工業)は生産性も平均給与も高く、労働者も多い、まさに産業全体の稼ぎ頭と呼べるような産業と言えます。

稼ぎ頭だけど経済規模は縮小?

 このように日本の製造業は非常に重要な産業なわけですが、冒頭で申し上げた通り、業種自体の経済規模は縮小しています。


■図4:日本の産業別GDPの推移[クリックして拡大] 出所:OECDの「Gross domestic product」と「Population and employment by main activity」を基に筆者作成

■図5:日本の産業別労働者数の推移[クリックして拡大] 出所:OECDの「Gross domestic product」と「Population and employment by main activity」を基に筆者作成

 図4が日本の産業別GDPの推移、図5が労働者数の推移となっています。赤線が工業を表していますが、どちらのグラフでも減少していることが分かりますね。

 工業のGDPは近年やや回復していますが、1997年に約142兆円だったのに対して、2018年は約129兆円と10兆円以上減少しています。また、労働者数は1997年に約1500万人でしたが、2019年には1200万人弱と300万人ほど減っているのです。

 日本の工業は産業の稼ぎ頭であるにもかかわらず、労働者数もGDPも減少しているということになります。その大きな理由の1つとして、国内生産だけで成立する事業が減り、多くの事業で海外生産を進めていることが挙げられます。一方、その他の主要国では工業の労働者数は減少していますが、GDPは増加しています。

 各国企業が双方向のグローバル化を進める中で、日本の場合は国内企業の他国進出が多い反面、他国企業の日本進出が極端に少ない歪なグローバル化が進んでいるのが特徴です。つまり、日本だけ企業が海外に出ていくばかりで、一方的に国内産業の空洞化が進んでいるのです。

 各国のデータ比較を通じて、どの国でも「いかに自国内で製造業の存在感を維持するか」がとても大切だと分かると思います。日本の場合は、国内での経済規模を維持できるだけの「強い事業」が減ってしまったとも解釈できますね。

 また、このような動きと連動して、多くの国内中小製造業が淘汰(とうた)されている実態もあるようです。事業承継の壁にぶつかり、経営者の高齢化と共に廃業を選択する企業が多く見受けられます。

 次回は、私たち日本の製造業の変化について、実態に迫ってみたいと思います。

<補足説明>

OECDのデータにおける産業の区分は、ISIC Rev.4に準じたものになっています。本連載では、主に下記表の表記でこれらの区分を表します。

区分 日本語表記 英語表記
A 農林水産業 Agriculture, forestry and fishing
B〜E 工業 Industry, including energy
F 建設業 Construction
G〜I 一般サービス業 Distributive trade, repairs; transport; accomod., food serv.
J 情報通信業 Information and communication
K 金融業 Financial and insurance activities
L 不動産業 Real estate activities
M〜N 専門サービス業 Prof., scientific, techn.; admin, support serv. actiities
O〜Q 公務・教育・保健 Public admin.; compulsory s.s.; education; human health
R〜U その他サービス業 Other service actiities

⇒本連載の目次はこちら
⇒製造マネジメントフォーラム過去連載一覧

筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る