中小製造業にこそ求められる付加価値創造、“望ましい循環”を生み出すポイント:2020年版中小企業白書を読み解く(3)(1/8 ページ)
中小企業の現状を示す「2020年版中小企業白書」において中小製造業も含めた中小企業にとっての「付加価値」の創出の重要性や具体的な取り組みについて3回に分けて考察する本連載だが、最終回となる今回は企業が生み出す「付加価値」の最大化について、付加価値の「創出」と「獲得」の両面から具体的に見ていきたい。
経済産業省 中小企業庁は2020年4月に「2020年版 中小企業白書」(以下、中小企業白書2020)を公表した。本連載では中小企業白書2020を基に、中小製造業も含めた中小企業にとっての「付加価値」の創出・獲得の重要性や具体的な取り組みについて、ここまで3回に分けて考察してきた。
第1回の「中小企業を取り巻くリスクと新型コロナウイルス感染症の影響」では、中小企業の業績動向や人手不足感などの現況、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が中小企業にもたらした影響について確認した。第2回の「生産性の低い企業は退出へ、中小企業の新陳代謝と見えてきた多様性」では、中小企業の労働生産性や新陳代謝、中小企業の多様性を踏まえて、それぞれの企業が生み出す「付加価値」の最大化を図ることが重要だという点に触れた。
最終回となる第3回では、この「付加価値」の最大化について、付加価値の「創出」と「獲得」の両面から具体的に見ていきたい。
付加価値増大の必要性
中小企業白書2020は、収益拡大から賃金引上げへの好循環を継続し、日本経済を成長・発展させていくためには、企業が生み出す付加価値自体を増大させていくことが必要だと指摘する。企業が生み出す「付加価値額」は、「従業員数」×「従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)」によって決まるため、企業単位で見れば従業員数の拡大を通じて付加価値額を増やすことも可能である。しかし、人口減少が進む日本において国全体としての付加価値額を継続的に増やしていくためには「従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)」の増大が必要になるとしている(図1)。
付加価値創出の前提となる企業の競争戦略
付加価値の創出に向けた取り組みの前提となる企業の競争戦略について、中小企業白書2020では、米国の経営学者マイケル・ポーター(Michael Porter)氏が提唱した以下の3つの競争戦略における類型化を紹介している。
- 業界全体を対象とし、低価格で優位性を構築する戦略
(コストリーダーシップ戦略) - 業界全体を対象とし、製品やサービスの差別化で優位性を構築する戦略
(差別化戦略) - 特定の狭い市場を対象とし、低価格および差別化に向けて資源を集中させる戦略
(集中戦略)
中小企業白書2020では、さらにこの「集中戦略」を「特定の狭い市場を対象とし、低価格で優位性を構築する戦略(コスト集中戦略)」と「特定の狭い市場を対象とし、製品やサービスの差別化で優位性を構築する戦略(差別化集中戦略)」に分け、アンケート調査を基に中小企業の競争戦略の実態を探っている(図2)。
これら4つの類型のうち、各社の競争戦略に最も近いものを確認し、業種別に集計したところ、全体としては「差別化集中戦略」を採る企業が最も多い。次いで「差別化戦略」を採る企業の割合が高くなっており、低価格ではなく差別化による優位性構築を志向する企業の割合が高い(図3)。これは製造業についても同様の傾向となっている。
競争戦略と営業利益率の関係を見ると「差別化集中戦略」を採る企業の営業利益率が高い傾向にある(図4)。
その一方で、競争戦略と労働生産性の関係を見ると「コストリーダーシップ戦略」を採る企業の労働生産性がやや高くなっているものの、戦略ごとでの大きな差は見られない(図5)。中小企業白書2020は、いずれの戦略が優れているということではなく、自社の強みや競争環境を踏まえて適切な戦略を採ることが重要だとしている。
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