検索
連載

治具って何? 何をするモノ?製造現場の地味な要!? 治具設計の舞台裏(1)(2/2 ページ)

現役の“治具屋”でもある筆者が、これまで手掛けてきた治具製作の事例を幾つか引用しながら、治具ができるまでの流れや治具設計のポイント、注意点について解説する連載。連載第1回では、「治具って何? 何をするモノ?」をテーマに、さまざまな治具の事例とその役割などについて紹介する。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

電子部品製造に関わる治具にはどんなものがあるか?

 このように、「治具」と呼ばれるモノの種類は、作業の種類に相当するだけ存在します。筆者の扱う治具は、主に電子部品メーカー向けに特化しているのですが、この限られた範囲でさえ、手作業の効率化からライン工程の改善までと、扱う幅が広いのです。

 さらに、ジャンルがジャンルだけに、精密さは当然ながら、時として熱伝導性や導電性を優先に検討することもあります。毎回製作しながら写真を撮っているわけではないのですが、電子部品製造に関わる治具の一例として、手元に残っている写真から幾つか紹介いたします。

例1:パレットタイプ実装治具

パレットタイプ実装治具
図8 パレットタイプ実装治具[クリックで拡大]

 「パレットタイプ実装治具」は、主に手付け実装における基板の固定と部品の位置決めに用いられます。設計に際しては、基板形状と寸法、各部品の搭載位置を支給されるデータから割り出し、搭載部品のデータシートから各部寸法を拾って、設計通りの基板が仕上がるように治具の各部寸法を決めていきます。

 リジット基板用の治具は基板を縁で支えることができるため、片面実装でも両面実装でも検討は比較的ラクですが、面で保持させるFPC基板(フレキシブル基板)の場合は、形状が複雑なことと、治具に当たる面に補強板や実装済み部品があれば、それらを逃がす加工を入れる必要があるため、少々手間が掛かります。

例2:吸着治具と薄型パッケージ固定治具

吸着治具薄型パッケージ固定治具 (左)図9 吸着治具/(右)図10 薄型パッケージ固定治具[クリックで拡大]

 「吸着治具」と「薄型パッケージ固定治具」は、共にデリケートな電子デバイスを“優しく固定するための治具”です。吸着治具は、真空ポンプからの配管をワンタッチ継手につなぎ、治具天面の穴をふさぐように置かれたデバイスをエアーで吸着するものです。薄型パッケージ固定治具は、可動側内部にスプリングを2本入れてあり、その作用で過剰に押さえ付けることなくデバイスを固定できるものです。

例3:ワイヤボンディング装置用ワーク吸着テーブル

ワイヤボンディング装置専用ワーク吸着テーブル
図11 ワイヤボンディング装置専用ワーク吸着テーブル[クリックで拡大]

 「ワイヤボンディング装置用ワーク吸着テーブル」は、この名称の通りの治具なのですが、あえて説明しますと、部品実装機の1種である超音波ワイヤボンダのテーブル上に設置し、ワーク(加工物)をエアーで吸着して固定するものです。テーブルが円形なのは、これが回転テーブルになっていて、ボンディングの位置決めを助ける構造になっています。また、テーブル表面に防振ゴムシートを貼ることで、吸着エアーの流路を設けながら、ワークが超音波振動の影響を過大に受けないようにしています。

例4:ハンドプレス式基板ケース嵌合確認治具

ハンドプレス式基板ケース嵌合確認治具(アセンブリ図)
図12 ハンドプレス式基板ケース嵌合確認治具(アセンブリ図)[クリックで拡大]
ハンドプレス式基板ケース嵌合確認治具(現物の一部)別角度のイメージ (左)図13 ハンドプレス式基板ケース嵌合確認治具(現物の一部)/(右)図14 別角度のイメージ[クリックで拡大]

 「ハンドプレス式基板ケース嵌合確認治具」も、その名称通りのものです。これは樹脂ケースに基板を入れた後に、一定の荷重をかけて蓋が正しく装着されたか確認する作業を、流れ作業的に安定的に行うための治具です。

 樹脂ケースの2D図面から3Dモデルを作成し、それに合わせた形状をポリアセタールにポケット加工して受け側とし、その真上に位置するように、パンチとなるポリアセタールの部品を取り付けています。レバーを下げるだけの簡単操作で、誰でも手間なく均一に確認できるというものです。



 このように、電子部品製造という限られたジャンルでの、ごくごく一例を取り上げてみただけでも、治具がいかに多種類なのかがよく分かると思います。そして、紹介した事例に限らず、これまでの治具製作はおおむね、使う側から寄せられる「現場の困りごと相談」からスタートしています。ですから、設計する前から物理的な制約や使用条件がいろいろと付いてきます。それを設計過程で克服しながら、作業でちゃんと効果が出せる治具を作らなくてはいけないので、自分本位で自由に設計できる仕事と比べると、変な緊張感があります。ただ、それでもご依頼主から「治具のおかげで解決できました!」という報告をいただくと、この上ない幸せを感じるので、この仕事にはやりがいを感じるんですよね(笑)。

 というわけで、次回からは「現場の困りごと相談から治具ができるまで」の流れを、実例を交えつつ設計者の立場で分かりやすく解説したいと思います。ご期待ください! (次回へ続く

⇒ 連載バックナンバーはこちら

Profile

藤崎淳子(ふじさきじゅんこ)

長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余(うよ)曲折の末、2006年にMaterial工房・テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“一人ファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組み立て、納品を一人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンター加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。




Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る