電動キックボードの“汚名返上”、ホンダ発ベンチャーが立ち乗り三輪モビリティ:電動化(2/2 ページ)
ホンダ発のベンチャー企業であるストリーモは2022年6月13日、電動三輪マイクロモビリティ「ストリーモ」を発表した。
転びにくく、安全に止まれるモビリティに
ストリーモは停止時も自立し、時速0kmからの極低速でも安定することを重視した。新法規で歩道を走行できるようになったときに、歩行者と同じ速度でも安定して移動できるようにするためだ。さらに、石畳や轍、傾斜などがあっても進路や姿勢が保てるようバランスをとる。
既存の電動キックボード、バイク、自転車、左右2輪の立ち乗りモビリティは揺動しながらバランスをとるが、段差や轍があるとバランスが取れなくなる。揺動しない自転車などの3輪車の場合は、速度が出ると遠心力で後輪の片側が浮くことがあり、転倒の危険がある。ストリーモは、揺動できる前部で動的安定を、揺動しない後部で静的安定を確保する。倒れ込みを抑えて挙動を穏やかにするバランスアシスト機構によってつながっている。
電動キックボードは左右のバランスを崩しやすいだけでなく、路面の状況によっては前のめりに転倒する点も危険だ。森氏によれば、前のめりに転ぶパターンには2種類あるという。1つは、段差に対して垂直に進入して乗り越えられずにひっくり返るパターンで、「このケースでの転倒は意外と少ない」(森氏)。多いのは、ハンドルが切れ込んで回ってしまう転び方だという。ストリーモはハンドルでバランスを取らないため、ハンドルが多少切れ込んでも転ばない。
前のめりの転倒を防ぐため、分担荷重にも配慮した。「既存の電動キックボードはフロントの分担荷重が大きいので、ギャップで振られたときに大きくハンドルが切れ込んで転倒する。また、前に重心があるとブレーキをかけたときに前のめりになりやすく、自分自身の減速度で前回りに転倒する。ストリーモは分担荷重が3つのタイヤでバランスをとれるようにした。前後の分担荷重は重心位置とタイヤの接地点で決まるので、人が立った時のバランスを含めて設計し、なるべく後ろ寄りに立たせるようにした。ストリーモはフロントの分担荷重が低く、他のタイヤも荷重を受けているので、ギャップで振られずに転倒しにくくなる。また、後ろの分担荷重のおかげで適切に減速度が出せる」(森氏)。
設計は、走る/曲がる/止まるの中で止まることを最重要視してスタートした。「どのくらいの減速度を出せるようにするか、目標の速度で自転車と同じく安全に止まれるかどうかという点から検討し、前輪の接地点や重心位置などのディメンションを決めた。安全面は諸元で決まるところが多い。そこからデザインをスタートした。左右の足を前後にすることなく、自然な立ち姿で乗れることにこだわっており、海外での試乗でも好評だ」(森氏)。
バイクからストリーモへのつながり
ストリーモの森氏は、ホンダで“倒れないバイク”の研究開発に携わった経験がある。二輪車は趣味性の高いモデルも多く、運転支援技術に対してユーザーからは賛否両論あるが、森氏は「バランスをとることは乗っている人にとって負荷である」と考える。
バランスどりのストレスや負荷を軽減することで安心でき、周囲に注意を向ける余裕が生まれ、その結果、何かを見つけたり気付いたりして移動することが楽しくなる……というステップで移動の楽しさを実現しようとしている。自然でストレスのない運転感覚であれば、サイドミラーの有無に関係なく、安全確認で振り返って目視する動作もしやすくなる。
モビリティとしてのストリーモは、海外で電動キックボードを利用した経験を基に2017年末から構想をスタートし、2018年ごろから自宅での制作に着手した。自宅にある端材、インターネット通販で購入できる部品などでトライアルアンドエラーを繰り返した。「家で溶接もできるようになった」(森氏)。会社としてのストリーモは2021年8月に設立した。
今後は、前の車両に追従するライドアシスト機能や、派生モデルの開発に取り組む。散歩のように自由に行きたいところに行くためのモビリティと位置付け、ライドアシスト機能は充実させない考えだ。スマートシティーのプロジェクトへの参加や、都市交通との連携なども進めていく。
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