東芝は“パンドラの箱”を開ける、データビジネスで硬直性打破を目指す島田氏:製造マネジメント インタビュー
東芝は2022年6月3日、代表執行役社長 CEOの島田太郎氏、社外取締役で特別委員会委員長のジェリー・ブラック氏が報道陣の合同インタビューに応じ、同年6月2日に発表した新たなグループ経営方針の内容などについて説明した。
東芝は2022年6月3日、代表執行役社長 CEOの島田太郎氏、社外取締役で特別委員会委員長のジェリー・ブラック氏が報道陣の合同インタビューに応じ、同年6月2日に発表した新たなグループ経営方針の内容などについて説明した。
東芝では、経営陣と主要株主との軋轢(あつれき)により、経営方針が二転三転する事態が続いている。2021年11月には、東芝本体からインフラサービスとデバイスの事業を分離独立させ、3つの独立会社に分割する方針を発表したが、わずか3カ月後の2022年2月にこの方針を変更して、2つの会社に分割する2分割案を発表。さらに、この2分割案が同年3月24日の臨時株主総会で否決され、新たに今回のグループ経営方針を発表した。わずか半年強の間に3度も主要経営方針が変更される異常事態に陥っている。また、東芝では、経営再建に向けた戦略について潜在的な投資家およびスポンサーとの協議を進めており、株式を非公開化する可能性もある。
これらの状況から、今回のグループ経営方針についても、6月28日に予定されている定時株主総会での支持を受けるということが前提となっており、さらに、企業運営体制の今後の変更によって方針が揺らぐ可能性が残されている。合同インタビューでも基本的には株式非公開化や特別委員会の運営体制、ガバナンスなどの問題について質問が集中したが、本稿では、東芝 島田氏によるグループ経営方針が維持されたことを想定し、課題感と目指す方向性について紹介する。
インフラビジネスが生み出すデータをサービス事業化
東芝の新たなグループ経営方針では、東芝が持つ豊富な社会インフラビジネスにより生み出されるデータを活用し、まずサービス化やリカーリング化を進めるDE(デジタルエボリューション)を推進。そして、それによって生み出されるデータを中心とした経済圏をベースにプラットフォームを構築しデータビジネスやマッチングビジネスを展開するDX(デジタルトランスフォーメーション)、さらに量子関連技術によりプラットフォームを結ぶQXへと進める方向性を示している。
こうした方向性は基本的には島田氏が東芝に入社以来、積極的に進めてきたものだ。東芝の持つインフラとそこから生み出されるデータの価値について、島田氏は既に展開しているスマートレシート事業を紹介。「例えば、POSの購買情報を把握できれば、テレビ局がCMを行った場合の本当の効果があるのかをリアルタイムで評価することができる。POSを通じたデータを活用することで、こうしたレポートを販売することができる。CMの効果により購入したビールの銘柄が変わった比率など、より詳細な購買情報の変化を示すことができる。こうしたサービス創出に200を超える企業と取り組んでいる」(島田氏)。
また、QXとして掲げる量子関連技術では、Q-STAR(量子技術による新産業創出協議会)などで量子関連技術の産業創出に取り組んでいるが、量子暗号通信技術で2030年度に150億円の売上高を目指すとしている。これに対し「少ないのではないか」という質問が出たが、島田氏は「目標値としては、市場規模の想定から導き出したものではなく、自社内で見込める売上高の積み上げの数値を示した。そのため、こうした数値を大きく超えるものになる可能性はある」と見通しを示している。
硬直性から一歩踏み出す“パンドラの箱”
一方で、東芝の課題として掲げたのが「内部硬直性」と「外部硬直性」だ。内部硬直性は社内の縦割り体制による組織的な硬直性を指す。一方で、外部硬直性は、市場の選択や自前主義など、展開方法が過去の成功事例から離れられないという融通の利かなさを示している。島田氏は「これらの硬直性の打破を不退転の決意で進める。しかも、可能な限り速い速度で、経営指標を示しながら進めていく」と語る。
東芝の硬直性については、島田氏は以前から課題認識を示してきたが、その原因については「東芝が過去多くの成功を勝ち取ってきたことが要因となっている。成功すればそれを守る方が企業としての利益につながる。成功しそれを守ることで利益を生み出してきた環境では、そこから踏み出すことに“パンドラの箱”のように、心理的障壁が生まれる。成功したがためのジレンマが生まれるわけで、全ての成功企業に共通するところだ。ただ、世の中が大きく変化する中でこれを変えていくことが求められている」と考えを述べている。
こうした硬直性の打破については「みんなのDX」を掲げるなどさまざまな取り組みを行ってきた。「今までの取り組みの中でも、多くの人がこの“パンドラの箱”を手に取るようになったと感じている。最初に飛びついてきたのが、将来が苦しくなることが見えている事業や業界のメンバーだった。その中で今までの事業の枠にこだわらずに飛び出したことで、アイデアが別のアイデアにつながったり、人同士がつながったり、多くの変化が生まれてきている。このスピードを高めたい。そして、こうした成果を外側の資本家からも見えるレベルに引き上げたい。これを全社レベルに展開して高めていくことを社長としてやっていく」と島田氏は語っている。
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