「言われたことをする」が基本の中国人の仕事のやり方:リモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(2)(2/2 ページ)
中国ビジネスにおける筆者の実体験を交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する連載。第2回では、前回の「『あうんの呼吸』に頼る日本人の仕事のやり方」に対して、中国人がどのような国民性を持っているのかを、2つのエピソードを交えて解説する。
上司から指示されたものが仕事
筆者の友人の三浦さん(仮名)が、中国企業に新しいシステムを導入するため、中国に長期出張することになった。その中国企業には、日本語のできる3人のリーダーがいて、友人は主にその3人とともに仕事をすることになった。その新システムの導入作業は、現状のシステムから徐々に切り替えていく形で行われた。
順次切り替えられていくシステムが、それを日々の業務で使う作業者にとって使いやすいものになっているのかを知りたく、問題点を随時フィードバックしておきたかったため、三浦さんはこの新システムの導入を進める過程で、作業者にアンケートを取ることを3人のリーダーに提案した。
ところが、三浦さんが3人のリーダーにアンケートの意図を説明し、その実施を依頼しても、断られるわけでもなく、かといって一向に実施してくれるそぶりも見せないのだ。なぜ、なかなか実施してくれないのか? その理由が分からないまま時間はどんどんと過ぎていき、とうとう新システムの導入開始から2カ月が経過してしまった。
三浦さんはついに痺れを切らして、この件を3人のリーダーの上司に相談した。すると、この3人のリーダーは、アンケートを取ることは自分たちの業務には入っていないと理解しており、実施してくれなかったことが分かった。つまり、上司からの業務指示の中に「アンケートの実施」は入っていなかったのだ。そこで、三浦さんはアンケートの必要性をその上司にも説明し、さらにはこの新システムを導入するための契約書にも追記することによって、やっとのことアンケートを実施してもらえたのだ。
このエピソードのポイントは、3人のリーダーがアンケートの必要性を理解していたとしても、上司からの指示がなければ、それを自分たちの業務として捉えないということだ。要するに、「上司から指示されていない業務はしなくてよい」「同じ給料で余計な業務を増やしたくはない」というのが、この3人のリーダーの考えだったのだ。3人のリーダーの誰かが、アンケートの必要性を理解して自ら実施したり、上司に提案して業務に追加してもらったりといったことは、絶対にありえないと考えてよい。
筆者も似たような経験を何度もしている。このようなシーンでは、打ち合わせ時に担当者の上司も同席してもらい依頼内容を伝えたり、担当者へのメールの際にその上司もCcに入れたりといった対応策が考えられる。
依頼内容の意図の説明と信頼関係の構築が大切
後半のエピソードの「依頼したことをやってもらえない」という話は、筆者が支援した企業の中にも多くある。中国で仕事の依頼をする際、まず大切にすべきことは、その依頼内容の意図を明確に説明することだ。そして、担当者の上司もそれを了承していることが必要だ。
ある程度の信頼関係が構築されていれば、依頼内容の意図を理解した担当者は自らその業務の必要性を上司にも報告するであろう。これは日本でも同じだ。中国人に依頼内容を確実に実施してもらうためには、「意図の説明」と「信頼関係の構築」が大切だ。
依頼の意図の説明に関しては、日本人の言葉の曖昧さや「あうんの呼吸」に頼ることによる説明不足、さらに言葉がそもそも通じていないことが多くある。日本で仕事をする際、長年付き合いのある企業が相手の場合も多いので、信頼関係は十分にあり、「あうんの呼吸」にも頼ることができる。もちろん、日本語は100%通じる。
依頼内容の意図の説明は口頭だけで済ますことはせず、曖昧でなく、「あうんの呼吸」に頼らない説明の仕方が必要だ。ぜひ、分かりやすい資料を作成して説明する習慣も付けてほしい。この対応に関しては、別の機会に解説する。
筆者は中国に駐在していたため、企業の担当者との信頼関係はしっかりと構築されていた。企業を訪問することは頻繁にあり、食事も共にし、仕事以外でもWeChatでコミュニケーションをとることは多かった。このように信頼関係が構築されていれば、中国人であっても「良い仕事をしたい」という気持ちは同じなので、担当者同士でも依頼内容の対応はすぐにしてもらえる。日本人が中国の企業と仕事をするときは、初めて関わる企業の場合が多く、信頼関係はまだ構築されていないのだ。
信頼関係の構築は、基本は会って話すことである。現在のコロナ禍においては、高頻度でのWeb会議の実施や、セキュリティを気にしなくてもよい内容についてはWeChatを活用すればいい。例えば、仕事のメールを送った後に、「読んでもらえましたか?」などの内容をWeChatで送るだけで効果はある。
日本の環境での仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでいては、トラブルや不良品が発生しても当たり前であると知っておく必要がある。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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