希少アミノ酸の量産技術確立に向け長瀬産業と日立が協業、化粧品や健康食品向けで:製造マネジメントニュース
長瀬産業と日立製作所、日立プラントサービスは2022年4月19日、バイオテクノロジーとデジタル技術を組み合わせたスマートセルの生産能力を高めるプロセスの確立に向けて共同開発を実施すると発表した。2022年度(2023年3月期)中に化粧品向け、2023年度(2024年3月期)中に健康食品向けの量産成功を目指す。
長瀬産業と日立製作所、日立プラントサービスは2022年4月19日、バイオテクノロジーとデジタル技術を組み合わせたスマートセルの生産能力を高めるプロセスの確立に向けて共同開発を開始したと発表した。2022年度(2023年3月期)中に化粧品向け、2023年度(2024年3月期)中に健康食品向けの量産成功を目指す。
スマートセルとは、生物細胞が持つ物質生産能力をバイオテクノロジーとデジタル技術によって高度に設計し、最適な形で制御することで細胞1つ1つを物質生産工場のように機能させる技術である。バイオテクノロジーとデジタル技術の進歩により、近年急速に発展しており、農業やライフサイエンス、その他産業領域で活用が進められている。
長瀬産業では、ナガセバイオイノベーションセンター、ナガセケムテックス、林原などグループ企業の連携により、以前からバイオ事業を推進。微生物の設計から酵素の製造、酵素の活用などに取り組んでいる。その中で希少アミノ酸の1つであるエルゴチオネインの開発に取り組んでいる。エルゴチオネインはキノコなどに微量含まれる抗酸化能に優れた天然アミノ酸で、食品や化粧品、医薬品など幅広い分野での活用が期待されている素材である。ただ、エルゴチオネインを製造するために使われていた有機合成法や抽出法などの従来製法は、環境負荷の問題、生産性の問題、製造コストの問題があった。
そこで、長瀬産業では2015年から微生物を用いた発酵法でエルゴチオネインのバイオ生産プロセス開発に着手。ちなみにエルゴチオネインの製造に活用している微生物は大腸菌だという。2019年からは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「スマートセルプロジェクト」に参加し、ラボレベルではエルゴチオネインの生産性を従来比1000倍にすることに成功している。
ただ、ラボレベルで生産性が実証できたとしても、量産レベルでその生産性を維持するのは難しく、さまざまなエンジニアリング技術などが必要になる。そこで、スマートセル技術を用いた発酵法による量産技術の確立を目指すために、日立グループとの共同開発を行うことにした。
長瀬産業 NAGASEバイオテック室本部 NAGASEバイオテック室 室統括の白坂直輝氏は「発酵生産物の製造には2つの“死の谷”がある。1つは開発段階での壁でこれについては何とかクリアできた。2つ目が生産技術の確立についての壁で、これを解決するために日立グループとの共同開発を行う」と協業の狙いについて述べている。
具体的には、長瀬産業が持つエルゴチオネインおよびバイオ製品の技術や知見と、日立製作所が持つ培養シミュレーション技術やデータ解析技術などのデジタル技術、日立プラントサービスが持つ大型培養プラントの設計や施工、スケールアップエンジニアリング技術などの培養プラントエンジニアリング技術を組み合わせることで、30〜50トンクラスの培養プラントでも安定した生産が行えるようにする。
日立製作所 水・環境ビジネスユニット 経営戦略本部 ライフサイエンス戦略事業 PJ担当本部長であり、日立プラントサービス イノベーション推進本部 担当本部長の能登一彦氏は「日立グループでは、1948年から250件以上のバイオプラントプロジェクトに関わってきた実績がある。スマートセルのプラントについても、抗体医薬品向けの動物細胞培養プラントでは実績がある。発酵法ではまだ実績はないが、共通領域も多く、これらのノウハウが活用できる」と語っている。
両社の共同開発では、まず培養シミュレーション技術などを用いて、スマートセルの培養工程のスケールアップ条件を予測し、ラボ実験や生産プロセス検討で取得したデータの解析により、生産性を最大化するプロセス条件やスケールアップ条件を探索する。その上で、生産プロセスのエンジニアリングや最適化方法の確立を進めていく。
今後はまず、2022年度中に化粧品向けの量産技術を確立し、その後2023年度中に健康食品向けの技術確立を進めていく。「化粧品向けは3トンクラスの培養プラントで十分なパイロットスケールであるために早期の技術確立が可能だと考えている。健康食品向けは50トンクラスの量が必要になるため、その後に確立を目指す」と長瀬産業の白坂氏は述べている。また、まずはエルゴチオネインの量産技術の確立を目指すが、その後は他の有用物質へ応用展開を進めていく計画だ。
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