三菱ガス化学がマテリアルズインフォマティクスに本腰、日立との協創で:研究開発の最前線(1/2 ページ)
2030年度を目標に「カーボンネガティブ技術」の開発を進めている三菱ガス化学が、新素材開発を高度化、加速する「マテリアルズインフォマティクス(MI)」の導入に向けて日立製作所との協創を推進している。既に、新素材探索の精度の約50%向上や、新素材探索に必要な実験時間の30〜50%短縮などの成果を確認している。
国内製造業のうち世界で一定の存在感を発揮し続けているのが素材・化学産業である。国内の素材・化学産業が、今後も競争力を維持し続けるにはデジタル技術の活用が欠かせない。中でも、研究開発分野で重視されているのが、大量の材料データからAI(人工知能)などを用いてデータ同士の関係性を見いだすことにより、新素材開発を高度化、加速する「マテリアルズインフォマティクス(MI)」だろう。
メタノールやキシレン、過酸化水素といった基礎化学品から、高機能エンジニアリングプラスチック、発泡プラスチック、半導体パッケージ材料、脱酸素剤などの機能製品を手掛ける三菱ガス化学もMIに積極的に取り組んでいる。同社は、経営で取り組むべき最重要課題(マテリアリティ)を2020年3月に特定しており、その一つとして、排出する温室効果ガスより吸収する温室効果ガスの方が多い「カーボンネガティブ技術」を2030年度に事業化することを目標に掲げている。あと8年で、極めてハードルの高いカーボンネガティブ技術を事業化するために、MIは必須の技術と言っても過言ではない。
このMI導入を加速するべく、三菱ガス化学の機能化学品事業部門が協創パートナーに選んだのが日立製作所(以下、日立)である。両社は、2020〜2021年のステップ1「業務効率化」でMIの基礎となるデータ収集を進め、足元の2022年のステップ2「データ利活用」では、関連データの追加による研究活動の加速化の段階に入りつつある。既に、半導体材料で目標性能を満たす新素材探索の精度の約50%向上や、新素材探索に必要な実験時間の30〜50%短縮などの成果を確認している。今後はこれらのデータを統合して分析するための基盤の導入を進めながら、2023年以降のステップ3「情報共有・活用推進」において研究開発などのさらなる高度化、効率化を実現していく構えだ。
高い研究開発力に対してDX推進に課題
三菱ガス化学は、手掛ける製品の9割以上を自社開発技術から生み出すなど研究開発力の高さが大きな特徴になっている。この研究開発力に基づく基盤技術を中核に、客観的な評価指標によって投資対効果を最大化した研究投資を行いながら、組織風土として培われたきたボトムアップ文化による研究の主体性を掛け合わせている。同社 執行役員 機能化学品事業部門 企画開発部長の西村喜男氏は「これらはまさに当社の強みといえるが、今後は最新のAIやMIといったデジタル技術を用いて研究プロセスの高度化と効率化を推進しなければならない」と指摘する。
もちろん、三菱ガス化学自身でも、これまでMIなどデジタル技術の導入に向けた取り組みを行っていなかったわけではない。ただし、2019年以前はカンパニー制を採用していたことや、研究所、工場などでそれぞれ独自の取り組みとなっており組織的な施策にはなっていなかった。「そういった『DX(デジタルトランスフォーメーション)推進』の観点では課題が多かったが、日立との協創により大きく前に進めることができている」(西村氏)という。
日本政府が2050年の達成を目標とするカーボンニュートラルにおいても、三菱ガス化学は全ての製品と事業でコミットしていく考えだ。例えば、基礎化学品事業部門が扱うメタノールやアンモニアは水素キャリアとして活用できる。一方、機能化学品事業部門が展開するエンジニアリングプラスチックやファインケミカルはEV(電気自動車)の軽量化によるエネルギー効率向上に貢献できる。また、約30年前から手掛ける地熱発電もカーボンニュートラルにつながる。西村氏は「素材・化学の製造業としてどのように社会貢献していくのか。そのためにも日立との協創は必須と考えている」と強調する。
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