三菱ガス化学がマテリアルズインフォマティクスに本腰、日立との協創で:研究開発の最前線(2/2 ページ)
2030年度を目標に「カーボンネガティブ技術」の開発を進めている三菱ガス化学が、新素材開発を高度化、加速する「マテリアルズインフォマティクス(MI)」の導入に向けて日立製作所との協創を推進している。既に、新素材探索の精度の約50%向上や、新素材探索に必要な実験時間の30〜50%短縮などの成果を確認している。
仮想実験と電子顕微鏡画像データへのAI適用で新素材探索精度を50%向上
一方、日立は2017年に構築した「材料開発ソリューション」によって、素材・化学産業を中心にMIの導入で貢献してきた。実際に、2021年末までの受注実績は40件/72事例と積み上がっており、これらのうち化学が22件/39事例、素材が6件/7事例と合計で半分以上を占めている。さらに、2020年には帝人との取り組みをきっかけに「材料開発CPS(サイバーフィジカルシステム)」の構築を開始するなどしている。日立 社会システムビジネスユニット 公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部 デジタルソリューション推進部 担当部長の森田秀和氏は「脱炭素社会や高度循環型社会への移行が求められる中で、素材・化学産業の競争力向上に貢献してきた」と述べる。
三菱ガス化学とのMIの主な協創事例は3つある。1つ目は「最適組成探索のための仮想実験」である。これまで新素材を探索する際には、熟練者が手作業で大量の原材料とその配合比率のパターンから条件を導き出しており膨大な時間がかかっていた。材料開発ソリューションによるMIでは、これまでの実験データに基づく機械学習やAIを駆使した多次元分析によって材料特性の仮想実験を行えるようになった。「実験データを用いた“マテリアルツイン”として順解析だけでなく逆解析も可能だ。日立の材料開発ソリューションの場合、これまでの事業展開でより幅広い材料開発に対応する機械学習モデル構築のノウハウを蓄積しており大きなメリットになる」(森田氏)。この仮想実験によって、実験の回数を削減するとともに精度も向上し開発期間の大幅な短縮につなげられるという。
2つ目は「電子顕微鏡画像と材料品質の関係性の定量化」だ。これまで、材料の電子顕微鏡画像と品質の関係性については、熟練者の経験を基に定性的に判断しており、実験結果を再現することが難しかった。そこで、画像処理AIによって電子顕微鏡画像から組織構造特徴量を抽出することで、データの意味付けや解釈の定量性を高めて物性の予測につなげられるようにした。そして、1つ目のMIによる仮想実験との組み合わせることで、製品開発時の最終実験候補の組み合わせを従来手法の約半分程度の時間で見いだすことに成功した。先述した半導体材料で目標性能を満たす新素材探索精度の約50%向上がこれに当たる。
ここで重要なのは、画像処理AIの学習対象となる電子顕微鏡画像データを豊富にそろえていることだ。三菱ガス化学では、過去の研究開発で撮影した、成功だけでなく失敗の事例までを含めたさまざまな電子顕微鏡画像データを保存しており、これらを活用できた。また、日立の材料開発ソリューションにおける電子顕微鏡データ活用での成功事例を活用するとともに、日立自身の電子顕微鏡大手としての知見も生かされている。
3つ目の「研究計画・実験データ・研究プロセスの統一的な蓄積・利活用」は、MI導入に向けたステップ1で取り組んだ「業務効率化」におけるデータ収集に当たる。素材・化学分野の研究開発活動では、実験結果を実験ノートなどの紙に記録していてデジタル化されていない、実験の情報が研究者間で共有されていない、研究計画と結果の関係性が把握しづらいという課題がある。そこで、日立の「実験データ収集サービス」を用いて、研究計画、実験データ、計画/承認/実行などの研究プロセスの統合化と可視化、研究者間での実験情報の共有を実現した。先述した、新素材探索に必要な実験時間の30〜50%短縮は、この取り組みによって得られた成果になる。
これまでの取り組みによって、三菱ガス化学の機能化学品事業部門の研究開発で約3割にMIが導入されたという。西村氏は「現時点ではまだ発展途上であり、これから根付かせていく必要がある。2022年の分析基盤の導入、2023年以降のさらなる高度化に向けて日立との協創を進めていきたい」と述べている。
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