全固体電池はマテリアルズインフォマティクスで、変わるパナソニックの材料研究:研究開発の最前線(1/3 ページ)
マテリアルズインフォマティクスによって二次電池や太陽電池の材料開発で成果を上げつつあるのがパナソニック。同社 テクノロジーイノベーション本部の本部長を務める相澤将徒氏と、マテリアルズインフォマティクス関連の施策を担当する同本部 パイオニアリングリサーチセンター 所長の水野洋氏に話を聞いた。
製造業は、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)をはじめとするさまざまなデジタル技術の取り込みに注力している。そういったデジタル化の波は、これまでデジタル技術とほぼ縁が無かった材料の研究開発プロセスにも及んでおり、その代表例といわれているのが「マテリアルズインフォマティクス(MI)」だ。
材料の開発手法はこれまで4つのパラダイムを変遷してきた。第1のパラダイム「経験科学」では、実験を繰り返す中から目的の材料の作り方を導き出していた。第2のパラダイム「理論化学」は、数学や物理学から導き出された理論を基に目的の材料を作成する手法だ。第3のパラダイム「計算化学」では、理論化学とコンピュータの処理能力の組み合わせで、より困難な材料の作成が可能になった。そして現在は、コンピュータ技術を基に進化した最新のITを活用する第4のパラダイム「データ駆動科学」に入っており、マテリアルズインフォマティクスはその中核技術となっている。
マテリアルズインフォマティクスへの取り組みは欧米の材料メーカーが先行しているとされる。日本の材料メーカーは、他の製造業と同様にIT活用を苦手としていることや、材料関連の研究者が経験科学的な手法を重視することもあり、マテリアルズインフォマティクスの導入はこれからという事例も少なくない。
このマテリアルズインフォマティクスによって、二次電池や太陽電池の材料開発で成果を上げつつあるのがパナソニックだ。同社は材料メーカーではないものの、総合電機メーカーとして最終製品の競争力を高めるために、材料やデバイスの研究開発に注力してきた。そして、今後も「世界で戦える強い技術と人をつくる」ための重要な施策に位置付けるのがマテリアルズインフォマティクスだ。パナソニック テクノロジーイノベーション本部 本部長の相澤将徒氏と、マテリアルズインフォマティクス関連の施策を担当する同本部 パイオニアリングリサーチセンター 所長の水野洋氏に話を聞いた。
MONOist パナソニックでのマテリアルズインフォマティクスへの取り組みはどのように始まったのでしょうか。
相澤氏 米国でマテリアルズインフォマティクスへの取り組みが始まったのは2009年ごろ。それと比べると国内企業はフォロワーということになるだろう。確かにアルゴリズム開発などの理論的な側面では米国が先行したと思うが、産業側の持つデータとの融合という意味ではあまり進んでいないという意見もある。
当社の場合、データ駆動科学に関する経験を持った人材がおり、そこからの発信で社内に展開していこうという機運が醸成されたのがきっかけになる。その後、マテリアルズインフォマティクスに本格的に取り組み始めたのは、私が本部長に就任した2018年からになる。
最初に課題になったのは、マテリアルズインフォマティクスをやるのに必要なデジタルデータが少ないことだったが、そこからパナソニックの100年の歴史の中で積み重ねてきた実験データや計算データのデジタル化に加え、科学雑誌(ジャーナル)のマイニングやオーブンデータベースと組み合わせるなどして、材料の組成−特性に関する統合データベースの構築を進めている。
これらの中でも大変なのが実験データのデジタル化だ。実験ノートなどに手書きで残されているレガシーな情報をデジタル化するのにはかなり手間がかかるが、それもスピードアップしていく。今後これらのデータは知財と同じくらい重要になっていく。そして、失敗データもしっかり残していく。成功データと同じくらい重要な情報だ。これらの実験データは、最低でもExcelレベルで統一した方式で残せるようにする。
データを整備できたとしても、材料の研究開発を突き詰めてきた材料技術者と、その成果をデータとして扱い解析するIT技術者の連携がなければ、なかなか成果を出すことはできない。特に、年配の材料技術者からは「AIを使って結果が出るなら苦労しない」という見方もあった。しかし、この両者のタッグがうまく回り始めると目に見えて成果が出始めるのだから面白い。その成果を見て、懐疑的だった材料技術者からやってみたいという意見も出るようになった。
当社は、マテリアルズインフォマティクスに関する取り組み開始時期は遅れたかもしれないが、産業側の持つデータと理論側の融合という意味ではかなりキャッチアップできているのではないかと感じている。実際に、この1年半の取り組みで、材料技術者とIT技術者の融合による相乗効果が出つつあるからだ。
水野氏 2017年4月から、当社のAI技術開発部門の支援を全社に広げることになり、材料開発でもその力を活用できるようになっていた。そこに、相澤の取り組みが重なって、一気にマテリアルズインフォマティクスを推進するための環境が整った。当社は2020年までにAI人材を1000人まで増やすという方針を出しているが、この中にはマテリアルズインフォマティクス関連も含まれており、さらなる推進力を得られるだろう。AI技術者も、注目を集めるマテリアルズインフォマティクスに大変興味を持ってくれている。
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