全固体電池はマテリアルズインフォマティクスで、変わるパナソニックの材料研究:研究開発の最前線(2/3 ページ)
マテリアルズインフォマティクスによって二次電池や太陽電池の材料開発で成果を上げつつあるのがパナソニック。同社 テクノロジーイノベーション本部の本部長を務める相澤将徒氏と、マテリアルズインフォマティクス関連の施策を担当する同本部 パイオニアリングリサーチセンター 所長の水野洋氏に話を聞いた。
材料とAIの技術者が連携して新たな電解質を開発するスキームを構築
MONOist マテリアルズインフォマティクスという技術についてどのように見ていますか。
相澤氏 多くの研究者からマテリアルズインフォマティクスを使った多くの論文が投稿されるようになっている。ただ「新しい材料が見つかった」という報告にとどまっていることが多く、実用面で使えるものにはなっていない印象だ。
以前、著名な科学雑誌の編集長が、マテリアルズインフォマティクス関連の論文を積極的に載せている理由として、そのポテンシャルの大きさを挙げていた。だが、まだそのポテンシャルは発揮されきっていない。そのために何が必要なのかはまだ分からない。もっとデータを収集することかもしれないし、AIの活用レベルをさらに上げることかもしれない。だが、かつてブームになったナノテクノロジーが定着したように、マテリアルズインフォマティクスも定着するだろう。
MONOist マテリアルズインフォマティクスを活用して、二次電池関連の材料開発で大きな成果が出つつあると聞きました。
相澤氏 パナソニックは、「環境ビジョン2050」として使うエネルギーよりも創るエネルギーを増やすという方針を打ち出している。そして、エネルギーを作る、ためる、使うという商品も販売している。例えば、電池であればニッカド、ニッケル水素、リチウムイオンと高容量化を進められたのは材料技術の進化があればこそ。さらに電池の高容量化を実現するには、やはり材料技術は不可欠だ。
しかしそういった革新的な材料を見つけるには10年はかかるといわれている。これをブレークスルーするのがマテリアルズインフォマティクスだ。何十万通りという可能性の中から良い性能が得られそうなあたりを付けられるので、研究開発期間を大幅に短縮できる。
実際の電解質材料の開発現場においても、材料技術者とAI技術者の連携を開始し、新たな開発スキームの構築が進んでいる。従来の経験に基づく探索をベースにマテリアルズインフォマティクスでさらに精度を向上していけば、全固体電池の実用化を加速させられるのではないかと考えている。
マテリアルズインフォマティクスにおいて重要なのはデータだ。材料探索を進める中ではデータ不足の領域も見えてくる。そこで、不足しているデータを取得するための専用実験環境を構築した。合成から評価解析を行って実験データを収集してから、AIを活用して大域最適と局所最適をカバーできる実験条件を導き出して、データ取得のサイクルを高速に回せるようにしている。
水野氏 マテリアルズインフォマティクスで重要な役割を果たすAIは、一般的に学習に使うデータの枠外にある外挿が苦手だ。そこで、統計数理研究所 教授の吉田亮先生と共同で外挿による新物質の探索にも挑戦している。
相澤氏 テクノロジーイノベーション本部としては、マテリアルズインフォマティクスによって新材料開発にかかわる研究期間を半減させたいと考えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.