全固体電池はマテリアルズインフォマティクスで、変わるパナソニックの材料研究:研究開発の最前線(3/3 ページ)
マテリアルズインフォマティクスによって二次電池や太陽電池の材料開発で成果を上げつつあるのがパナソニック。同社 テクノロジーイノベーション本部の本部長を務める相澤将徒氏と、マテリアルズインフォマティクス関連の施策を担当する同本部 パイオニアリングリサーチセンター 所長の水野洋氏に話を聞いた。
「ほぼバーチャルの世界で研究開発を行えるようにしたい」
MONOist 海外と比べて国内におけるマテリアルズインフォマティクスの取り組みは遅れがちだと聞いています。そんな中で、材料メーカーではないパナソニックが一定の成果を出せている理由は何でしょうか。
相澤氏 電機メーカーとしてデバイスや機器を手掛けているので、それらに必要な材料に何が求められているかよく分かる点が、材料メーカーとは異なるかもしれない。また、マテリアルズインフォマティクスを進める上で重要な役割を果たす、データの収集やアルゴリズムのことを良く知る人材が社内にいて、最大限活用できることも大きい。
また、パナソニックには広範な分野にわたってさまざまな技術者が在籍しており、それらの技術者が交流する文化がもともとあることも強みになっているかもしれない。
MONOist 今後の研究開発の方向性について聞かせてください。
相澤氏 これからの研究開発はシミュレーションをどこまで活用できるかが重要になって来るだろう。研究開発の土台になる、「研究」で役立つのがマテリアルズインフォマティクスだが、そこで探索した新材料を使ってデバイスや機器につなげていく「開発」でもシミュレーションの果たす役割はどんどん広がっていくだろう。電池であれば、原子分子レベルからセルレベル、デバイスレベル、そしてシステムレベルまでシミュレーションを活用していく。もちろん実機を使った試験は必要だが、それを最小限にして、ほぼバーチャルの世界で研究開発を行えるようにしたい。
新材料開発にかかわる研究期間を半減するという目標の先には、開発、そしてその先の製造にかかる期間の大幅な削減まで視野に入る。もちろん、開発や製造となると、研究を担当するテクノロジーイノベーション本部の枠を超えて事業部との連携も必要になるだろう。研究開発から製造までが一気通貫につながるようにしたい。そのためにも、研究の部分で土台を作ってしっかり成果を出していく。
材料研究で実験は大変重要だが、実験室でいろいろと準備して実際に実験をするのは手間のかかる作業だ。マテリアルズインフォマティクスなどの活用が進めば、「実験する」という行為が、まずはPC上でバーチャルに行うということが当たり前になるかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日本の化学産業は研究開発をデジタル化できるのか「海外勢から2〜3周遅れ」
製造業の中でも、最もデジタル化が進んでいない領域といわれているのが、化学産業の研究開発部門だ。化学産業におけるデジタル化の取り組みを支援するアクセンチュアは、日本の化学産業が、欧米の大手化学メーカーなどの海外勢から2〜3周遅れの状況にあると指摘する。 - 蓄電池材料の探索におけるマテリアルズ・インフォマティクス
蓄電池の材料を探索する方法として、ビッグデータやAIを応用したマテリアルズ・インフォマティクスからのアプローチが増えつつある。ダッソーの講演でハイスループット計算やベイズ最適化を適用した機械学習の適用例が語られた。 - クルマづくりは分子レベルから、「材料をモデルベース開発」「最短5分で耐食試験」
マツダのクルマづくりを支える先端材料研究を探る。モデルベース開発を応用した分子レベルでの素材開発や、耐食対策を効率化する短時間の防錆性能評価といった独自の取り組みを紹介する。 - 全固体電池は材料から生産技術まで幅広い課題、オールジャパンで解決目指す
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、全固体リチウムイオン電池の研究開発プロジェクトの第2期を開始する。全固体リチウムイオン電池の製品化でボトルネックとなっている課題を解決する要素技術を確立するとともに、プロトタイプセルで新材料の特性や量産プロセス、車載用としての適合性を評価する技術も開発する。期間は2018〜2022年度で、事業規模は100億円を予定している。 - AIや機械学習を駆使して、パナソニックが新材料開発をデジタル化
パナソニックは、創業100年を記念したプライベートイベント「CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018」(2018年10月30日〜11月3日、東京国際フォーラム)を開催している。会場では同社のマテリアルズインフォマティクスに関する取り組みについて発表した。 - トヨタ自動車が材料開発に人工知能を活用、今後4年で39億円投じる
人工知能(AI)技術などの研究・開発を行うトヨタ自動車の子会社Toyota Research Institute(TRI)は、人工知能技術を活用した材料開発を加速させる。電池材料や燃料電池の触媒に使用する材料の開発期間を短縮する狙いがある。