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日本の化学産業は研究開発をデジタル化できるのか「海外勢から2〜3周遅れ」製造マネジメント インタビュー(1/2 ページ)

製造業の中でも、最もデジタル化が進んでいない領域といわれているのが、化学産業の研究開発部門だ。化学産業におけるデジタル化の取り組みを支援するアクセンチュアは、日本の化学産業が、欧米の大手化学メーカーなどの海外勢から2〜3周遅れの状況にあると指摘する。

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 製造業をはじめとしたさまざまな産業に革新をもたらす第4次産業革命が注目を集めている。第4次産業革命において重要な役割を果たすのは、これまで導入が進んでいなかった領域にITを導入していくデジタル化になるだろう。第4次産業革命にとって、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用する局面が多いのは、IoTによって紙などに記録されていたアナログの情報がデジタルデータとなり、それらのデジタルデータからAIによって新たな知見を得られるからだ。

 製造業の中でも、最もデジタル化が進んでいない領域といわれているのが、化学産業の研究開発部門だ。化学品や医薬品を生産する工場やプラント、調達から物流、在庫などに関わるサプライチェーンについては、組立製造業よりもデジタル化が進んでいる事例がある一方で、研究開発については旧態依然としたアナログな手段を用いて行われていることが多い。アイデア創出が、各研究者のノウハウやナレッジに依存していることも課題になっている。

デジタル化に向けた3つのポイント

アクセンチュアのポール・ホフマン氏
アクセンチュアのポール・ホフマン氏

 研究開発を含めて、化学産業におけるデジタル化の取り組みを支援しているのがアクセンチュア(Accenture)だ。同社 アクセンチュア・デジタル 人工知能&データサイエンス担当プリンシパル・ディレクターのポール・ホフマン(Paul Hofmann)氏は「化学産業の研究開発部門におけるデジタル化には、シミュレーション、データドリブンR&D、実験室内作業の自動化という3つのポイントがある」と語る。

 1つ目のシミュレーションでは、実験を何度も繰り返して目的とする物質やその合成法に行き着いていたこれまでのやり方を、コンピュータ上のシミュレーションで置き換えるものだ。「In silico Chemistry(シリコン=コンピュータチップの中で行う化学)」とも言われている。

 ホフマン氏は「ニューラルネットワークを使って、今までにないタイヤ向けの化合物の設計を見いだしたり、量子コンピュータを用いて組み合わせ問題を解くことで、副作用がなく量産しやすい医薬品の開発が可能になっている」と説明する。また、コーンスターチからエタノールを生産する酵素の収率を高める技術も開発した事例もある。「この成果から、収率という数値を基に酵素を販売できるようになるかもしれない。従来の量で売るビジネスモデルを大きく変える可能性がある」(同氏)という。

化学産業の研究開発部門のデジタル化に向けた3つのポイント
化学産業の研究開発部門のデジタル化に向けた3つのポイント(クリックで拡大) 出典:アクセンチュア

 2つ目のデータドリブンR&Dは、生産や試験、顧客の要望など、さまざまなデータの活用が焦点になる。「そのためには組織のデジタル化も求められるだろう」(ホフマン氏)。開発した物質の試験期間を早めたり省略したりすることで、市場要求にタイムトゥマーケットに対応できるようになり、経営面での効果も得られる。

アクセンチュアのスリラジ・スリニバサン氏
アクセンチュアのスリラジ・スリニバサン氏

 3つ目は実験室の自動化になる。合成や試験で行うプロービングやサンプリングなどをロボットで丸ごと自動化するのだ。これによって、研究開発者は実験室へのリモートアクセスが可能になり1週間、24時間実験を行えるようになる。「自動化という観点では、協働ロボットが果たす役割も重要だろう」(ホフマン氏)。

 アクセンチュアは、これら研究開発のデジタル化を含めた、化学産業向けのデジタルプラットフォームとして「DIGITAL CHEMIST」を構築している。同社 素材・エネルギー本部 化学業界およびデジタルトランスフォーメーション担当マネジャーのスリラジ・スリニバサン(Sriraj Srinivasan)氏は「化学産業におけるプロダクトサイクルの全てのステップでイノベーションを推し進めていく。化学産業にとって、顧客からの採用を拡大していくには試用(トライアル)の段階が極めて重要なはずだ。DIGITAL CHEMISTは、AIなどを活用して製品の開発と試験を短縮し、試用の段階に進められることが大きなメリットになる」と述べる。

アクセンチュアの「DIGITAL CHEMIST」「DIGITAL CHEMIST」の導入効果 アクセンチュアの「DIGITAL CHEMIST」(左)と導入による効果(右)。2番のProduct Formulationと3番のTestingの期間を短縮し、5番のCustomer Trialに早期につなげられるとする(クリックで拡大) 出典:アクセンチュア

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