日本の化学産業は研究開発をデジタル化できるのか「海外勢から2〜3周遅れ」:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
製造業の中でも、最もデジタル化が進んでいない領域といわれているのが、化学産業の研究開発部門だ。化学産業におけるデジタル化の取り組みを支援するアクセンチュアは、日本の化学産業が、欧米の大手化学メーカーなどの海外勢から2〜3周遅れの状況にあると指摘する。
データサイエンティストを多数擁する欧米の大手化学メーカー
アクセンチュアで化学産業のデジタル化を推進する立場にある、ホフマン氏とスリニバサン氏だが、両氏とも欧米の大手化学メーカーに所属していた経歴を持つ。ホフマン氏はドイツの大手化学メーカーであるBASFで研究開発やIT導入、生産現場など幅広い業務を担当。スリニバサン氏は、デュポン(DuPont)やアルケマ(Arkema)に勤めていたという。
両氏は、これら欧米の大手化学メーカーは、デジタルエンタープライズの1つとしてデジタルR&Dに注力していると声をそろえる。「研究開発に関わるデータを用いて事業価値を最大化するのがデジタルR&Dだ。化学産業で注目されているマテリアルズインフォマティクスはその1つだ。化学情報を管理し、既存の製品の新たな用途や改善点を見いだすことも重要だ」(スリニバサン氏)。
例えば、BASFには既に約100人ものデータサイエンティストがいるという。ホフマン氏は「過去200年間、R&D企業だったのがBASFだ。BASFの新入社員は必ず研究から始めるほどだ。R&Dを重視するからこそデジタルR&Dに投資しているのだ」と強調する。また、「デュポンにはデータサイエンティストが50人いる。また、1990年代から予測モデリングを活用しており、代替フロンのR-134aは研究開発から生産までコンピュータを使ってモデリングしたことで知られている」(スリニバサン氏)という。
これら欧米の大手化学メーカーに対して、日本の化学産業については「データ活用への踏み込みが足りない。特にR&Dデータの活用に課題がある」とホフマン氏は指摘する。「すり合わせ開発の傾向が強く、研究開発者の経験と勘がベースになっている。また、従来の延長線上にあるインクリメンタルなR&Dが多く、破壊的ではない。データ活用に積極的になっている海外勢に対して2〜3周遅れと言っていい」(同氏)。
例えば、ある医薬品メーカーでは、10〜15年分のR&Dデータを「Amazon DynamoDB」でデータベース化し検索可能にした。「こうしてデジタル化することで誰でも見られるようになる」(スリニバサン氏)。過去実験データのデジタル化に取り組む企業は増えており、そこから生産やテストなどのデータと連携してAIでモデリングするような取り組みも始まっている。
踏み込みが足りないという、日本の化学産業についても、合併などによるERPの再構築と合わせて全てのデータを統合する中で、R&Dデータの電子化を始めている事例もある。三菱ケミカルホールディングスのように、CDO(最高デジタル責任者)を外部から招く企業もある。ホフマン氏は「欧米のみならずデジタル導入に積極的な中国も含めて、日本の化学産業が対抗していくには、デジタル化に手をこまねくべきではない」と述べている。
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