ホンダが挑む高効率材料開発、マテリアルズインフォマティクスの活用に向けて:Ansys INNOVATION CONFERENCE 2020(1/2 ページ)
アンシス・ジャパン主催のオンラインイベント「Ansys INNOVATION CONFERENCE 2020」のAutomotive Dayにおいて、ホンダは「マテリアルズインフォマティクスを活用した高効率開発のための材料データベース」をテーマに講演を行い、同社の材料データベース導入、マテリアルズインフォマティクスの取り組み事例を紹介した。
アンシス・ジャパンは2020年9月9〜11日の3日間、オンラインイベント「Ansys INNOVATION CONFERENCE 2020」を開催。初日(同年9月9日)の「Automotive Day」の事例講演では、ホンダ 四輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発統括部 材料開発部 パワーユニット材料課 アシスタントチーフエンジニアの伊藤剛氏が「マテリアルズインフォマティクスを活用した高効率開発のための材料データベース」をテーマに、同社の材料データベース導入、マテリアルズインフォマティクスの取り組み事例を紹介した。
材料データベース導入に至った背景と狙い
ホンダが材料データベースの導入に至った背景には、「材料情報の高度化」と「デジタル開発の拡大」といった“自動車業界における変化”が関係しているという。
まず、材料情報の高度化については、軽量化ニーズに応えるべくエンジンや車体に対し、樹脂やマグネシウムといったより軽量な材料が多用されるようになったこと。さらに、複数の材料を用いるマルチマテリアルボディー、3Dプリント技術のような新たな製造技術の登場により、既存の材料や製法にとらわれないマルチマテリアル化が加速したことなどが挙げられる。一方、デジタル開発の拡大では、MBD(モデルベース開発)においてさまざまなCAEが活用されるようになり、それに伴い材料モデルが高度化していることが背景にある。
※講演企業の申し出により初出時に掲載していた一部画像を削除いたしました(更新:2020年9月15日)。
こうした自動車業界における変化を踏まえ、伊藤氏は「材料情報の『カテゴリーを超えた情報共有』と『開発システムとの連携』が必要だ」と訴える。
さらに、社会環境の変化も、同社の材料データベース導入を推し進める理由の一つになっているという。労働人口の減少や働き方の多様化を背景に、企業はノウハウや情報をいかに共有すべきかといった、ナレッジマネジメントの必要性が問われている。また、ビッグデータの収集、分析による価値創造の実現に向け、企業として情報科学の活用にも取り組んでいく必要がある。
こうした業界や社会環境の変化からも分かる通り、材料データについても連携や共有が強く求められているが、「現状はそれがうまくできていないことが多い」(伊藤氏)と指摘する。
その理由の一つとして、現場主導型のボトムアップ企業の体質が挙げられる。多くの日本の大企業がボトムアップ企業といわれるが、そのデメリットとして部門最適に陥りがちで、全体最適が進みにくいということがある。その影響により、全体を網羅したデータベースが存在せず、必要なデータを人づてに探すといったことが頻発する。また、仮にそのデータが見つかっても「データが整理されていないため、いつ、どのような素性の材料で取得したデータなのかといったことが抜け落ちてしまうことがよくある。データの個人持ちや関係者のみでの共有が、著しく業務効率を低下させている」(伊藤氏)。
以上のような材料データを取り巻く既存課題の解決に向けて、同社はバラバラに存在していた材料データをデータベースに一元管理することで、「データ共有の効率を向上させるとともに、データサイエンスやデータエンジニアリングとしての活用につなげ、最終的にはマテリアルズインフォマティクスといった統計的手法によって、新たな材料開発を進め、永続的な価値創造につなげる」(伊藤氏)ことを狙う。
材料データベース導入に向けた課題抽出と求められる条件
材料データベースの導入に向けては、まず課題の抽出から開始したという。その代表的な課題の1つが「材料分野の広さ」だ。自動車の場合、用いられる材料は大きく「金属材料」「有機材料」「機能材料」「化成材料」に分類されるが、それぞれに多くの材料が含まれる上に、製造工程や要求特性が多種多様となるため、製造パラメーターの管理や試験条件、試験項目の管理が非常に細分化され、高いエキスパート性が要求される。「それ故に、各分野の専門家も細分化されており、材料データも分散して存在してしまう。それらデータをいかに集約して、データベースで一元管理するかが課題となる」(伊藤氏)。
もう1つの課題は「ユーザーの立場によるニーズの違い」だ。例えば、設計担当者であれば、業務を進める上で、材料名称や分類、過去の適用部品の他、密度、ヤング率といった特定の材料特性の代表的な値が必要となる。一方で、CAE担当者はそれらに加え、各CAEツールに適した材料カードの情報や応力ひずみ線図など、高度な材料情報を用いる。さらに、材料担当者にとっては、材料の分類や名称だけでなく、製造企業や製造日、鋳造条件、硬度、組織などの素性に関する情報の他、試験条件や細かな試験結果などの情報が重要となる。伊藤氏は「このように担当者の立場によって、必要な情報は異なる。これらを考慮して材料データベースを適正に構築しなければならない」と語る。
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