トヨタの材料解析クラウドサービスで住友ゴムがタイヤゴム材料開発を加速:材料技術(2/2 ページ)
住友ゴム工業は、オンラインで「材料解析クラウドサービスを活用した実証実験説明会」を開催し、2022年4月12日に発表した「ゴム材料開発における解析時間を100分の1以下に短縮〜トヨタ自動車の材料解析クラウドサービスを活用〜」の取り組み内容について詳しく説明した。
従来の研究開発フローを変革する「WAVEBASE」
住友ゴムにおける従来の研究開発フローでは、「実験の失敗によるやり直し」「実験計画の甘さに伴う実験計画の練り直し」、さらには「データ不備による追加実験」などが発生するケースがみられた。また、先端研究施設では“次に行える実験は約半年先”となるため、考察、着眼点の議論や新発見を結び付けるのに「時間的なロス」があった。
こうした従来の課題に対し、WAVEBASEを活用した材料研究開発では、実験計画の時点で実験結果の予測・推定が可能となるため、より良い実験計画を事前に立てられるようになる。また、先端実験の現場でも解析ができることで、実験のやり直しや足りないデータを瞬時に判断でき、追加実験をすることなく有効なデータの取得が行える。さらに、データを迅速かつあますことなく処理できることで、今まで取り出せなかった情報、人の頭では導き出せない新たな着眼点や新発見に結び付けることが可能になる。
増井氏は「WAVEBASEを活用することで、材料研究開発のサイクルを非常に早く回せるようになり、今後、研究者人口が減少する状況下であっても、競争力の高い研究開発を実施できるようになる。トヨタ自動車の情報科学技術を駆使したWAVEBASEにより、材料研究開発スキームを変革させ得る新たなDX(デジタルトランスフォーメーション)基盤を得ることができた」と述べる。
先端実験における従来のスキームでは、住友ゴムは外部の先端研究施設で実験を行い、データを社内に持ち帰って解析を実施していた。そして、実験室系分析装置の結果と合わせて考察進めていたという。その際、実験データが足りないことが分かっても、実験できるのが半年先になってしまうため、研究開発の加速にはどうしても限界があった。「そこに、WAVEBASEが革新的な解析環境をもたらしてくれる」(増井氏)。
WAVEBASEを活用することで、先端研究施設での“現場”でのリアルタイム解析が可能になるという。これにより、実験データを取り損ねていても、その場ですぐに再測定などすることで、実験の時間的ロスを削減でき、材料開発のスピードを加速させられる。また、先端研究施設だけでなく、社内の実験室系分析装置で得たデータを融合した解析も実現できるとしている。さらに、WAVEBASEの開発にはトヨタ自動車のデータサイエンティストやマテリアルサイエンティストが携わっているため、ニーズに応じた解析手法のカスタマイズが可能であり、単なる解析結果だけなく、その“データの持つ意味”まで踏み込んだ解析が行える。
ちなみに、2022年4月12日に発表したプレスリリースのタイトルにある「ゴム材料開発における解析時間を100分の1以下に短縮」に関して、住友ゴム 研究開発本部分析センター 主査の間下亮氏は「実験に用いる1つのサンプルを、SPring-8であますことなく解析するとなると4年ほどかかってしまう。それがWAVEBASEを活用することで、100分の1以下の2週間に短縮できる」と補足説明する。
WAVEBASEを活用した今後のタイヤゴム材料開発への期待について、増井氏は「WAVEBASEを用いて“データの持つ意味”を理解できれば、これまでノイズだと思っていたわずかなデータ中の変化が、実は意味を持つものだと分かるかもしれない。例えば、エナセーブ NEXT IIでは、シリカとポリマーをつなげる結合剤において、結合剤の長さを変えたときのタイヤ性能への影響を調べた結果、結合剤の長さをわずかに変えるだけで、耐摩耗性能が51%向上するという結果が得られた。このような“わずかな変化”を、これまでは人手で見つけてきたが、高度情報処理が可能なWAVEBASEの活用によって、人手では見つけられなかった“わずかな変化”を見つけられるようになり、グリーンイノベーションによるタイヤ開発を通して、社会課題へ貢献する、すなわち当社の企業理念である『未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる』の実践につなげられるはずだ」と述べる。
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