なぜBASFは製品4万5000点のCO2排出量を可視化できたのか:海外事例で考える「脱炭素×製造業」の未来(2)(4/4 ページ)
国内製造業は本当に脱炭素を実現できるのか――。この問いに対して、本連載では国内製造業がとるべき行動を、海外先進事例をもとに検討していきます。第2回は世界最大の化学素材メーカーであるBASFを題材に、同社がいかにして製品のCO2排出量可視化に取り組んだかを解説します。
グーグルやアマゾンからヒントを得る
なぜ、自社のデジタル化にとどまらず、業界標準化にまで視野を広げているのでしょうか。それはBASFの企業戦略から読み解けます。
- 持続可能性のソートリーダーでありたい
- SDG製品売上を2025年までに220億ユーロへ
- デジタル化はビジネスに不可欠
ソートリーダーとは、「特定の分野の権威として認められている個人または企業」という意味です。ここには世界最大の総合化学メーカーからサステナビリティ分野の先導者でありたいという、BASFの意思表示が見て取れます。将来を先取りした革新的なアイデアや解決策をいち早く発見し実行したい、数値にコミットしてマーケットの信頼を獲得したい、という思いが感じ取れます。
最後に参考資料として、BASFが考える「優れた企業の3要素」も紹介します。大量データを格納する器を持ち、AIやビッグデータで解析し、顧客体験につなげるというシンプルなものです。グーグルやアマゾンからヒントを得るあたりも、ソートリーダーでありたい姿勢の現れです。
大量データは1カ所に集約
CO2排出量の可視化には各所から収集した、大量のデータが必要になります。この際、「大量データの格納庫は、どれくらい広げるべきか?」と疑問に思う人もいるかも知れません。置かれた職務・職責により意見が分かれる問いですが、以下に筆者の回答を記載します。
- 売上、原価、生産、在庫など実績系データは1カ所にまとめることが望ましい(特に汎用的な業務データ)
- 工場データは設備に依存するため複数か所(工場横串で可視化する仕組みを準備)
- 顧客体験に直結する顧客情報、顧客対応データはTCOの観点から1カ所が望ましいが、その限りではない
例えば、BASFのインターネット顧客接点は、SNSを含めて78チャネルありました(2019年時点)。同社は「複数媒体で取得した顧客情報+α」を1カ所のマーケティングデータ格納庫へ保管しています。1カ所に集約したのは、インターネットで取得した見込顧客や引き合い情報を自社の販売システムへつなげ、営業担当がフォローアップしやすくするためです。
まとめると、BASFの取り組みから国内製造業が学べることは次のようになるでしょう。
- CO2排出量の削減には、全社横断の組織設計が必要
- 脱炭素やDXなど事業部横断の組織は社長直下など強い権限を持たせる
- KPIと人事評価で人を動かす、進捗管理は週次・月次など短いサイクルが良い
- 業界標準の前に、まずは自社の業務標準化・デジタル化から着手
- 必ずしも、大量データの格納庫は1か所である必要はない
- 自社が業界標準を作る、ソートリーダーを目指す、という気概を持つ
- そのために異業種、学術界などの知見を柔軟に取り入れる
- 上記の意識醸成を一部の経営層だけでなく、管理職、現場へと波及させる
皆さまの日頃の活動が企業価値向上につながり、さらには日本全体の脱炭素推進に少しでも役立つ内容だと感じていただければ幸いです。
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