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製造業の脱炭素って本当に可能ですか? 欧州よりも積極性が求められる日本海外事例で考える「脱炭素×製造業」の未来(1)(1/2 ページ)

国内製造業は本当に脱炭素を実現できるのか――。この問いに対して、本連載では国内製造業がとるべき行動を、海外先進事例をもとに検討していきます。第1回は脱炭素を巡る欧州と日本の「共通点」と「相違点」を解説します。

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 2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするとした、日本政府の「カーボンニュートラル宣言」は本当に現実的な目標でしょうか? 筆者の意見は「Yes」です。ただし、各国政府のコミットメントと政策展開、企業、消費者の意識改革、継続的な技術革新があれば、です。

 大事なのは、企業だけでなく消費者が脱炭素を自分事として捉え、これまでの消費行動や意識を変えて、本気で取り組むこと。これが、最も有効な打ち手になり得ます。この数年、企業のサステナビリティ部門の新設が相次いでいます。しかし、当然ですが、脱炭素をはじめとするサステナビリティ活動は社内で完結するものではありません。自社の顧客や取引先など社内外の多様なステークホルダーが関わり、目標の実現に向けて、時には協働しつつ動いていくものです。

 これを頭の片隅に入れつつ、本連載では「製造業が本当に脱炭素を実現できるのか」という問いを立てて、国内製造業がとるべき行動を、海外先進事例を基に検討していきます。さまざまなステークホルダーの観点で分析し、正面から考察してみたいと思います。


多様なステークホルダーが関与する[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 なお脱炭素を巡る社会、経済、エネルギーの状況は各国で異なりますが、できるかぎり平易に解説して日本との違いを示した上で、考察を展開していきます。第1回は、脱炭素だけでなくESG(環境、社会、ガバナンス)全般において、世界でも先進的な取り組みをしているといわれる欧州に焦点を当てていきます。

⇒本連載のバックナンバーはこちら

欧州と日本の共通点

 欧州における脱炭素の政策例としては、欧州委員会(EC)が2019年に出した「欧州グリーンディール」が代表的なものとして挙げられます。温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにするために、法律によってEU各国に政治的なコミットメントを義務化して、関連投資を促す政策です。ポイントは、脱炭素を新たな国家成長戦略として位置付けることで、新規に雇用を創出しようとしている点にあります。産業界の温室効果ガス排出が招いたさまざまな環境問題を、一挙に解決しようとしているのです。


欧州グリーンディールの概要[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 さて、実は欧州と日本には脱炭素を取り巻く情勢には似通った点が幾つもあります。先に挙げた欧州グリーンディールの政策理念は、日本のカーボンニュートラル宣言に通じる点が多くあります。また、大意では脱炭素を肯定する意見が国民全体の多勢を占めている点も特徴です。概して、欧州でも日本でも、個別の論点では脱炭素の方向性に反対することはあっても、長期的に見て環境負荷低減に向けた取り組みを推進すること自体には賛成という意見を多くの人が持っているのではないかと思います。

 経済成長の必要性においても、欧州は長く低金利が続いており、経済成長の強力なドライバーを求めている点でも日本と類似しています。EV(電気自動車)向けモーターの製造に必要なレアアース、バッテリーに必要なリチウムやコバルトといった、低炭素、脱炭素化につながる製品に有効な資源を輸出に依存している点も共通しています。

 「化石燃料への依存」や「炭素集約産業への依存」も同様です。鉄鋼業は欧州でも基幹産業であり、2019年までは粗鋼生産量で欧州メーカーが首位でした。脱炭素の潮流が加速する中でガソリンエンジンをベースとした自動車も、大半はEV、一部は水素をエネルギー源とする自動車に置き換えられます。ガソリン車とEVは外見は似ても中身は大きく異なるため、自動車メーカーや関連サプライヤーの優位性はなくなる可能性が高いことも、日本と同じです。


類似点も多い日本と欧州[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

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