製造業の脱炭素って本当に可能ですか? 欧州よりも積極性が求められる日本:海外事例で考える「脱炭素×製造業」の未来(1)(2/2 ページ)
国内製造業は本当に脱炭素を実現できるのか――。この問いに対して、本連載では国内製造業がとるべき行動を、海外先進事例をもとに検討していきます。第1回は脱炭素を巡る欧州と日本の「共通点」と「相違点」を解説します。
日本は自然豊かな土地、だけど…
もちろん、欧州と日本の間で異なる点もあります。脱炭素という観点から見ると、自然資源の「質の違い」には着目すべきでしょう。日本は四季があり温暖な気候で森林も豊富、また周囲は海に囲まれるなど水資源も豊かな国です。
ただ、自然が豊かだからといって、それが再生可能エネルギーの生産にとって理想的とは限りません。欧州に比べて山がちな地形で平地が少なく、また梅雨をはじめ豊かな四季は日照時間を短くし、太陽光発電の設置場所や年間発電量に制約をもたらします。平地面積の少なさは風力発電の設置場所の制限につながります。
太平洋側のすぐ近くに深い海溝があり、日本海側も遠浅の海が少ないため洋上風力の設置海域も限られてしまうのです。地熱発電の普及可能性も議論されていますが、適した地域は温泉地か観光地がほとんどで、既存のエネルギー業界との利権調整を考慮すると主力発電になれる可能性はあまり高くないでしょう。
一方、欧州はフランス、ドイツの平地面積の比率がともに70%弱。陸上風力の設置場所が多く、洋上風力も北海に設置しやすい環境です。こうした恵まれた地理的条件に加えて、EU全体で見ると約4億5000万人(2020年時点)という巨大な人口、27カ国の加盟国を持つなど、「国際的なルール作り」において有利に働く基盤を備えています。
日本国内では現在、GXリーグや電子情報技術産業協会(JEITA)が設立した「Green×Digitalコンソーシアム」など、官民共同でさまざまなイニシアティブが設立されています。これらのイニシアティブは欧州のような諸外国との地理的制約条件の差などを考慮した上で、日本で実現し得る脱炭素の手法を模索する傾向にあります。
欧州以上の「難しさ」もあり
脱炭素の先行事例として欧州を参照すること自体には意義があります。一方で、今回ご紹介した通り、欧州と比べ日本には、「再エネ生産に不向きな自然」など脱炭素実現において不利な条件もあります。また産業構造上の問題として、炭素集約型産業への高い依存をどう克服するかといった課題も残されています。
国内製造業は脱炭素の実現に向けて、欧州以上に意欲的な活動が求められているように思います。そこで次回は、欧州メーカーに焦点を当て、何を学べるか考察します。とりわけ、温室効果ガス排出削減に向け大きな岐路に立つ化学業界のトッププレーヤーである、ドイツのBASFの脱炭素に向けた取り組みを紹介します。
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