ヤンマーの大玉トマト収穫ロボット、2段階認識と独自吸着ハンドで実用化へ:2022国際ロボット展
ヤンマーは、「2022国際ロボット展(iREX2022)」のNEDOブースにおいて、開発中の大玉トマト収穫ロボットの試作機を披露した。
ヤンマーは、「2022国際ロボット展(iREX2022)」(リアル展、東京ビッグサイト、2022年3月9〜12日)のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)ブースにおいて、開発中の大玉トマト収穫ロボットの試作機を披露した。
さまざまな自動化が進む農作業の中でも、実現が難しいといわれているのが果実や野菜の収穫作業である。中でも、国内における野菜や果物の生産額で最も大きい大玉トマトについては、実が密着して房になっている上に、各トマトの実が成っている方向が異なることもあり、単純な機械で自動収穫するのが難しいとされている。
そこで、NEDOの「革新的ロボット研究開発基盤構築事業」の下で、ヤンマーが持つ農業関連のノウハウやソフトウェア技術などを生かし、2020年11月から開発が進められてきたのが今回披露した大玉トマト収穫ロボットだ。特徴は「収穫するトマトの形状/姿勢認識」と「吸着切断ハンド」の2つである。
「収穫するトマトの形状/姿勢認識」は、収穫対象となるトマトがどこにあるかの位置認識と、トマトの形状やそのトマトの実が付け根の果梗(かこう)から成っている状態を含めた姿勢の認識という2段階で行う。トマトの位置認識は機械学習ベースで、形状と姿勢の認識は機械学習+ルールベースの組み合わせでアルゴリズムを構築した。これにより、次に説明する「吸着切断ハンド」にとって、吸着しやすく、果梗を切断しやすいトマトの表面部位を検出できる。
大玉トマトの形状は完全な球体ではなく、表面もでこぼこがあるため、一般的な球体物の把持に用いられる吸盤で安定的に吸着することは難しい。そこで「吸着切断ハンド」では、ヤンマーが新たに独自開発した「Trun-cone pad(トランコーンパッド)」を採用した。トランコーンパッドは、穴の開いたスポンジ素材を吸着機構の先に装着した構造で、でこぼこのトマトの表面に開口部を中心にしてスポンジ素材が吸い付くようになっている。これでさまざまな表面形状を持つトマトをしっかりと把持してから、トランコーンパッド上部に組み込まれた小さなハサミを使って果梗を根元から切断し、多関節ロボットを使ってトマトを収穫かごに収めれば収穫作業は完了する。なお、トランコーンパッドについては特許申請中である。
これら2つの特徴に関わる技術開発について一定のめどが立ったこともあり、今後は実用化に向けた開発の段階に入ることになる。「今回披露した試作機は認識アルゴリズムを一般的なPCで動作させているが、それを含めた制御システムの小型化が求められるだろう」(ヤンマーの説明員)としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ロボットトラクターで空港の草刈りを自動化、ヤンマーが作業者不足の解消を支援
ヤンマーアグリジャパンは、鹿児島空港へロボットトラクター「YT488A」2台を納入した。有人トラクターに代わり、専用タブレットからの指示で空港内緑地部の草刈り作業と集草作業を自動化し、作業者不足を解消する。 - ヤンマーが環境認識システムを開発、自動車向けと一味違う技術力をアピール
ヤンマーホールディングスは、「ET&IoT 2021」において「ヤンマー環境認識システム」を披露した。同社が農業機械や建設機械向けに開発している技術で、屋外をはじめとするさまざまな環境でAIによる画像認識が可能なことを特徴とする。 - ヤンマーがトヨタの燃料電池を船に、2023年の市場投入目指す
ヤンマーホールディングス傘下のヤンマーパワーテクノロジーは2021年10月13日、燃料電池システムを搭載した実証試験艇で、高圧での水素充填や大阪湾での試験航行を実施したと発表した。船舶に70MPaの高圧水素充填を行うのは「世界初」(ヤンマーホールディングス)としている。 - 人手不足と高齢化の漁業を救う、「自動着桟システム」の最前線
ヤンマーは、「最大の豊かさを最小の資源で実現する」というテクノロジーコンセプトを掲げ、そのコンセプトを実現する研究開発テーマを定めている。マリン関連の研究開発テーマとしては、海域調査やインフラ点検などに貢献する「ロボティックボート」、1本のジョイスティックだけで操船できるようにする「ジョイスティック操船システム」「自動航行」と「自動着桟」、そして、船舶特有の動揺を抑制する「サスペンションボート」に取り組んでいる。 - 養殖業の作業効率化に貢献、画像認識技術を用いた自動魚数カウントシステム
ヤンマー舶用システムは、養殖マグロの計数作業の省力化に貢献するため、画像認識技術を用いた「自動魚数カウントシステム」を発表した。水中カメラ、船内モニター、画像処理PC、専用ソフトウェアで構成する。 - ヤンマーがサービス専門施設を新設、IoT活用の進化でAIによる部品消耗予測も
ヤンマーホールディングスは、同社グループのグローバルCS(顧客満足)拠点となる「ヤンマーシナジースクエア」の運営を2020年10月19日に開始する。YSQの建屋は、ヤンマーのサービス関連3社を統合して設立したヤンマーグローバルCSの新社屋として機能する他、本社内にあった「リモートサポートセンター」が機能を強化して移設される。