オムロン ロボット事業の現在地、ロボットとラインの統合制御は実践で価値証明へ:FAインタビュー(2/2 ページ)
2015年に本格的にロボット事業に参入したオムロン。買収や提携などを経て、ライン制御とロボット制御を統合して行う「ロボット統合コントローラー」なども展開する中、現状をどのように捉え、今後はどのような方向性で進むのか。オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー ロボット推進プロジェクト本部長の寺山昇志氏に話を聞いた。
2つの方向性での価値創出
MONOist 新たな価値創造のフェーズに入ったということですが、今後の取り組みの方向性について教えてください。
寺山氏 大きく分けて2つの方向性で、ロボットと制御を統合した価値を広げていきたいと考えている。
1つは、デジタル領域での拡張だ。製造現場の生産性やスループット向上を進める際、全てを現実世界のハードウェア上で試行していたのではスピード感が合わない。デジタルの世界でのシミュレーションなどを組み合わせながら、フィジカルの世界とデジタルの世界を緊密に連携させ、ソフトウェア資産をベースとして、製造現場をフレキシブルに変更できるような世界の実現を目指す。これもフィジカルの世界の情報を一元的に統合できる「ロボット統合コントローラー」のような存在があるから行えることだ。
例えば、モバイルロボットの領域では複数ロボットの統合コントロールやシミュレーション、分析などを一元的に行えるソフトウェア「Flow core」を展開している。シミュレーション機能により実際にモバイルロボットを設置する前に導入効率や課題を明確化でき、短期立ち上げが可能な他、可搬重量の異なる複数タイプのモバイルロボットを統合的にコントロールでき、シンプルなシステム構成を実現できる。使用するロボットの入れ替えなども容易だ。こうした世界をモノづくり現場のさまざまな領域で実現していく。また、これらを進めることでエンジニアリング作業そのものの負荷低減にも貢献したい。
2つ目が、ロボットの用途の拡大だ。1次産業や2次産業での使用拡大に取り組んでいく。工業品では、もともとロボットが活用されていた領域も多いが、従来ロボットが使用されていなかった領域での普及にも努めていく考えだ。
そのためにはより使いやすく簡単にしていく必要がある。FA領域で使用するロボットはある意味で“専門家”が扱うもので多少難しくても問題はない。しかし、従来ロボットを使ってこなかった領域ではロボットの専門家はおらず、そのギャップを埋める必要がある。ロボットシステムインテグレーターに全てを任せることも難しく、テクノロジーでより簡単に、使いやすい形を実現していく必要がある。
例えば、アプリケーションパッケージを展開する仕組みなどを想定している。典型的な使用方法や作業内容を想定したパッケージとしてまとめ、それを組み合わせることでそのまま現場で使用できるようにすることが理想だ。作業に必要なハードウェアやソフトウェア、プログラムなどを一体化してモジュール化できていれば、プログラミングなしに工程作業を組み上げることができる。そうした世界を実現したいと考えている。
モバイルロボットでの協業や連携の可能性も
MONOist 新たな価値創出を進めていく中で現状では足りないピース、補完したい要素についてはどう考えますか。
寺山氏 ロボットのハードウェアについては、モバイル、産業用、協働という大枠でのカテゴリーは確保できたと考えている。今後は可搬質量や環境対応、サイズなどのニーズにより足りないラインアップを補っていくというのが基本的な考え方だ。
その意味で補完する要素として重視しているのはソフトウェアの領域だ。ハードウェアで差別化をし続けるのは将来的には難しくなると見ており、ソフトウェア領域と組み合わせてアプリケーションとしての姿で違いを生み出していけるようにする。そのためのソフトウェア領域の強化を進めていく。
M&Aなども条件が合致するようなものがあれば検討していくが、産業用ロボットや協働ロボットについては、現状は今抱えているものをさらに磨くという方向性だ。協働ロボット領域については基本的には使いやすさの面や生産性と安全性がトレードオフになる問題など、共通課題も数多くあるので、業界でも協調して取り組む動きが出てきている。
一方で、可能性を感じているのはモバイルロボットの領域だ。物流領域やFA領域でも作るものや運ぶもの、地域などさまざまな要素で強いところや弱いところが混在している現状であり、新たな連携や協業などの可能性があると見ている。オムロンのラインアップとしてもモバイルロボットはあるが、ガイドが必要なAGV(無人搬送車)はなく、これらを組み合わせて使いたいとする引き合いも来ている。こうしたニーズに応えるような枠組みなども可能性はあると考えている。
MONOist 今後の抱負について教えてください。
寺山氏 ロボット統合コントローラーにより、制御とロボットを一体で運用する価値の方向性は作り出すことができた。それをさらに拡充するとともに実際の現場で価値を示していく。そのためには実装するための能力の強化が必要であり、自社のリソースに加えてシステムインテグレーターとの関係強化も進めていく。また、そのためにはエンドユーザーにとって価値ある機能だけでなく、システムインテグレーターがエンジニアリングを行いやすくするような機能の充実も必要だ。価値を届ける仕組みについてもさらに強化していくつもりだ。価値を届けきることができれば「2024年度に600億〜700億円規模」とした目標についても十分達成できると考えている。
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