電池の「セル」「モジュール」「パック」、その違いをおさらい:今こそ知りたい電池のあれこれ(9)(3/3 ページ)
突然ですが問題です。乾電池のサイズを表す際には「単1」「単2」といった名称を用いますが、この「単」とは何を意味しているでしょうか。
「モジュール」を介さずにシステム化する
従来の車載用バッテリーシステムは、ここまで説明してきたように「セル」(単電池)→「モジュール」(組電池)→「パック」(システム化)といった流れで構築されるものでしたが、近年は異なるアプローチ、特にEV用途においては「モジュールレス化技術」へ着手する流れも見られるようになってきています。例えば、モジュールを介さずに複数のセルを直接まとめあげてパック化させる「セルtoパック」や、パックというシステムそのものを車体構造に組み込んでしまう「セルtoシャシー」といったアプローチを公表するメーカーが出てきています。
こういった「モジュールレス化技術」の背景にあるのは「体積エネルギー密度の向上」です。過去の記事で、正極活物質のトレンドは「コバルトフリー」と「使い分け」であると述べました。今後、コスト的な観点からコバルトフリーの流れが進むことで、EVに採用される電池は、材料ベースで安価なオリビン鉄(LFP)系と、ニッケルやマンガンを主体にしたそれ以外の材料系に大きく二極化し、搭載車両の価格や性能に応じてそれらを選択する場面が出てくるという考え方です。
ここでポイントとなるのは、安価でボリューム帯への採用が見込まれるLFP系はエネルギー密度が低い材料であるという点です。LFP系の電池を採用した場合、車両価格を抑えることができる半面、1回の充電で走行可能な距離を伸ばしにくいという問題が出てきてしまいます。そこで注目されているのが、体積効率的により多くの電池を車体へ搭載することが可能な「モジュールレス化技術」です。つまり、単セル当たりのエネルギー密度の低さをシステムパッケージとしての集約方法によってカバーしようというわけです。
2019年9月、北汽集団はCATLと共同開発したセルtoパック方式のバッテリーパックをEV「EU5」に搭載すると発表しました。CATLの報告では、セルtoパック方式の適用により、従来パックと比べると、スペースの有効活用によるエネルギー密度の向上や必要部品の削減によるコストメリットがあるとされています。
また、2020年3月に開かれたBYDの新型電池「ブレードバッテリー」の発表会の中でも、ブレードバッテリーはエネルギー体であると同時にバッテリーパックを支える梁のような構造体でもあり、モジュールを廃して体積効率を改善する旨が述べられました。
テスラの「Battery day」においても、セルを直接パック化するとともにシャシーの中に車体構造の一部として搭載する「セルtoシャシー」の構想が語られました。同様に、2021年9月に開催されたトヨタ自動車の「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」とその質疑応答の中でも「パックの一体構造化」、パックレスな構造も視野に入れた発言がなされています。
2021年11月29日、日産自動車が発表した長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」の中でも、将来の技術コンセプトとして車体へ電池を組み込んだ一体化構造について語られており、EV用途において、より効率的なシステムパッケージを構築するために各社が新しいアプローチへ着手する流れが見られるようになってきています。
今回は「セル」「モジュール」「パック」といった区分で電池技術を整理しつつ、特にEV用途で見られる「モジュールレス化技術」に対する各社動向をまとめてみました。読者の皆さまにとって何かのお役にたてれば幸いです。日本カーリットの電池試験所、危険性評価試験所では「セル」から「パック」まで幅広く対応し、電池技術の発展に貢献できるよう、これからも取り組んでまいります。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 群馬工場 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
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▼安全性評価試験(電池)
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