「パナソニックに足りないのはスピード」CNS社CTOに就任した元MS榊原氏:製造マネジメントニュース (2/2 ページ)
パナソニック コネクティッドソリューションズ社は2021年12月1日、同年11月1日に同社CTO兼イノベーションセンター所長および知財担当に就任した榊原彰氏に対するメディア懇談会を開催し、報道陣の取材に応じた。
パナソニックに足りないのはスピード
榊原氏と報道陣による主な一問一答は以下の通り。
―― パナソニック CNS社に入った理由は何か。樋口氏(元日本マイクロソフト会長)がCNS社の社長を務めていることも要因の1つか。
榊原氏 日本マイクロソフトで一緒だった樋口氏とまた一緒に働けるということもモチベーションの1つであることは確かだ。ただ、最も大きかったのが、パナソニックがこれからITプロバイダーになるために変革に乗り出すということだ。ブルーヨンダーを買収したということも含めて、変革への大きな覚悟を感じた。そこに一緒に携わりたいということが大きな動機となった。
―― パナソニックがITプロバイダーになるためには何が一番足りないと感じているか。
榊原氏 スピードが一番の課題だと感じている。市場に対するアプローチがソフトウェア業界とは大きく異なっている。サブスクリプションビジネスでは、クラウドなどと組み合わせることで通信を通じていつでもモジュールを変更できるという利点があり、それを生かすためには、フェイルファスト(早く失敗して問題点を洗い出すこと)など、トライ&エラーのサイクルを素早く回していくことが重要になる。失敗に慎重になり過ぎて遅れるよりも、タイムトゥマーケット(製品の市場投入までの時間)を市場の要望に合わせることが必要だ。品質はもちろん重要だが、グローバルでの競争の中でスピード感で勝てない部分が出てきている。こうした環境を文化的な面も含めて変えていくことが必要になる。
―― IBMやマイクロソフトでの経験から「リカーリングビジネスへの変革のノウハウなども伝えたい」としていたが、具体的にはどのようなことか。
榊原氏 リカーリングビジネスを推進するためには、社内のさまざまなオペレーションの変更など、従来の売り切り型のビジネスとは変えていなければならない点が多く出てくる。プロセス変革や人事面の変革などだ。また、新たな挑戦をしていくために、企業文化的な面も変えていく必要がある。こうした総合的な変革を経験し、技術だけでなく経営的な面でもノウハウを提供できる。
豊富なセンシング技術を生かしたマルチモーダルAIに強み
―― ブルーヨンダーとの連携についてより具体的に教えてほしい。
榊原氏 いくつか方法があると考えている。1つはパナソニックが既に持っている顔認識技術などのサービスをブルーヨンダーのソリューションに連携させていくことだ。ブルーヨンダーにアルゴリズムレベルでパナソニックのソリューションを標準として組み込んでいく。従来はシステムインテグレーションとして連携させるだけだったが、標準に組み込むということが重要だ。
その他では、クラウドに情報を出すのに抵抗がある企業向けにプライベートクラウドを立てたり、エッジサーバを立てたりする支援をパナソニックで行うこともできる。またクラウドとデータ連携させる前に、エッジ側でデータの前処理を行うようなところでも連携ができると考えている。
―― 「技術者であり続けるCTO」として、パナソニックの持つ技術で注目しているものは何か。
榊原氏 多様なセンシング技術を持っているということだ。画像認識でも顔認識や行動認識などさまざまな技術を持つ他、音声認識、発話認識、空間認識などさまざまな認識技術を保有している。センサーそのものでもLiDARなどさまざまなハードウェアを保有しており、幅広い技術があることが特徴だ。
ただ、これらの1つ1つの技術はグローバル競争も厳しく、コモディティ化していく。その中でも、これらの豊富なセンシング技術を組み合わせ、マルチモーダル(複数の形式や種類の)データを最適に処理することができれば、それは大きな差別化につながる。マルチモーダルでデータをブルーヨンダーに取り込み効果的に活用するような仕組みができれば、ブルーヨンダーの価値を高めることもできる。
―― パナソニック CNS社のCTOとしてどういうメッセージを発信したいか。
榊原氏 日本はITで周回遅れなどと指摘されることもあるがそんなことはない。底力はある。少しベクトルを変えてツールを変えればちょっとした修正で息を吹き返す。こうした中で単純にITを提供するのではなく、一緒に変えていくというのをメッセージとして伝えていきたい。
―― 成し遂げたい目標は何か。
榊原氏 CNS社を突破口として、パナソニック全体が時代にマッチしたテクノロジー提供企業になっていけるとよいと考えている。そのための試金石になりたい。
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