いまさら聞けない「製造業のDX」:5分で読める簡単解説(1/2 ページ)
デジタル技術の進歩により現在大きな注目を集めている「DX」。このDXがどういうことで、製造業にとってどういう意味があるのかを5分で分かるように簡単に分かりやすく説明します。
IoT(モノのインターネット)活用やCPS(サイバーフィジカルシステム)などデジタル技術の進展により、注目を集めている「DX」ですが、製造業にとってのDXがどういうことで、どういう意味があるのかを「5分で分かる」ように簡単に分かりやすく説明します。
「DX」とは何か
「DX」は「Digital Transformation」の略語で、日本語では「デジタル変革」などと訳されています。英語では「Trans」が付く文字を「X」と省略するケースがあるため「DX」となりました。
もともとはスウェーデンのウオメ大学 教授のエリック・ストルターマン(Eric Stolterman)氏が提唱した概念とされていますが、日本では2018年に経済産業省 商務情報政策局が発表した「DXレポート 〜ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開〜」が公開されて一気に有名になりました。
さて、「DX」は「デジタル変革」だといいましたが、あえて「DX」を定義すると「デジタル技術が基盤になった時に起こる企業や産業への変化」だと考えた方が理解しやすいと思います。ここでいう「デジタル」は「フィジカル」の対極に位置付けられるもので、全てを「フィジカル&ハードウェア」を前提に考える世界ではなく、「データ&ソフトウェア」を前提に考える世界です。この「前提が変わる」ことによるギャップで生み出される新たな価値が「DX」の本質だといえます。
「データ&ソフトウェア」の世界特有の価値として「場所を問わない」という点と「劣化なしでコピーが無制限にできる」ということがあります。例えば、電子メールを思い浮かべるとデジタルの特性については、イメージしやすいかと思います。地球の裏側に連絡したいとき、手紙では、バイクやクルマ、船、飛行機などを乗り継いで郵便局から郵便局へと受け渡されてようやく到達し、数週間や1カ月かかる場合もあります。しかし、電子メールでは、送信後すぐに届けることができます。また、CCなどで関係者に確認用のコピーを付けることも簡単に行えます。
また、「場所を問わない」という点と「劣化なしでコピーが無制限にできる」という点を言い換えると「距離を無視できる」ことと「失敗が無限にできる」ことになります。つまり、「フィジカル&ハードウェア」の世界で「距離が制約になっていたもの」「成功率が制約となっていたもの」などが、「データ&ソフトウェア」の世界を前提にすると制約から解放されるようになります。
DXを象徴する音楽業界
この「データ&ソフトウェア」を前提とした「DX」を象徴する動きとして、音楽業界の変遷を紹介したいと思います。音楽業界では、CDなどの音楽ソフトの生産量や生産額は年々減少しています。日本レコード協会によると音楽ソフトの生産額のピークは1998年で6974億9400万円でした。しかし、2019年には2291億2900万円まで減少し、約10年で3分の1まで減少したことが分かります。
一方で音楽配信の売上高については、2010年頃にフィーチャーフォンからスマートフォンへの切り替えで着メロ市場などが崩壊した影響を除けば、基本的には右肩上がりで増加しています。
現状ではまだまだCDなど音楽ソフトによる売上規模が大きい状態ですが、数年後には比率が逆転することも予想されます。従来はCDなどのハードウェアにより場所や特定機器に縛られるのが当たり前でしたが、「データ&ソフトウェア」の世界を前提とすることでその在り方を大きく変え、市場そのものが様変わりしたことを示しています。
ポイントとなるのが「前提が変わる」ということです。アナログレコードからCDへの変化も一種のデジタル化です。しかし、この変化は既存の枠組みを変えるものではなく、単純に売るモノが置き換わっただけでした。これでは「DX」とはいえません。「DX」が指し示しているのは、その後の動きです。CDにより音楽がデータとなり、デジタルデータを前提にするとどのような価値が生み出せるかということを考えて、距離を超えハードウェアに縛られない音楽配信の仕組みが生まれました。現在では配信向けのプロモーション手法や楽曲制作手法なども確立されつつあるといいます。この「データ&ソフトウェア」の前提をベースとし、市場の在り方を変え、新たなエコシステムを生みだすという動きが「DX」です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.