いまさら聞けない「製造業のDX」:5分で読める簡単解説(2/2 ページ)
デジタル技術の進歩により現在大きな注目を集めている「DX」。このDXがどういうことで、製造業にとってどういう意味があるのかを5分で分かるように簡単に分かりやすく説明します。
製造業にとっての「DX」とは
さて、それでは製造業は「DX」にどのように取り組むべきなのでしょうか。
まず「DX」の本質としての「デジタルを前提とした新たな価値の創出」を検討することが求められます。デジタル技術が発展し、より容易に広範囲に「データ&ソフトウェア」の世界が適用できるようになってきています。この利点を生かすことで既存のビジネスの「前提」がどう変わり、そうなった時にどうするべきかを考える必要があります。
「製造業はモノを作ることが中心で音楽業界とは異なる」と思うかもしれません。しかし、顧客価値から考えた場合、製造業が提供しているのはモノだけなのでしょうか。「モノを通じて提供している顧客にとっての価値」や「モノ以外で提供している価値」があるのではないでしょうか。これらに着目すれば、「データ&ソフトウェア」の世界の特徴を当てはめることができる領域も出てきます。「場所を問わない」「劣化なしで無制限にコピーできる」の価値が生きる領域を考えると新たな形が見えてきます。
例えば、現在注目されている遠隔監視や予兆保全などの動きは、製造業としてのモノの意味と「データ&ソフトウェア」の利点を組み合わせた良い例だと考えます。今後、これらを前提としてビジネスモデルそのものを変え、市場の在り方を変えるような動きにつなげていくことで本質的な「DX」につながっていくと考えます。
また、逆にこうした「データ&ソフトウェア」で描かれる世界を前提として、モノづくりを逆算するという動きも出てきます。例えば、MaaS(Mobility as a Service)の世界が広がれば、クルマやバイクなどの稼働率は、所有することを前提とした現在よりも大幅に高まると見られています。そうすると、従来以上の耐久性が必要になる他、故障や不具合などを自己診断するような機能も必要になってきます。
先ほど音楽業界で見たように、前提が「データ&ソフトウェア」の世界に変わることで、市場が変化しメインプレイヤーも変わることになります。最終的には現実世界はフィジカルの世界ですので、モノの価値というのは変わらず残り続けます。ただ、デジタル技術の適用があらゆる産業で広がる中、「前提が変わった時にどうなるか」というのは常に考えておく必要があります。そしてその時に「DX」を主導する側を選ぶのか、「DX」後の市場に最適なモノを提供する側の役割を担うのかを選択する必要が出てくるでしょう。
「デジタル前提の世界」の基盤を整える
もう1つ製造業が「DX」の一環として取り組まなければならないのが、こうした「デジタルを前提とした世界」に対し企業内の基盤を整えるということです。「DXレポート」の「2025年の崖」でも指摘されていることですが、多くの日本企業が「DX」による新たなビジネスモデルを目指したとしても、既存の企業システムがIT面でも組織面でも老朽化および属人化されすぎていて、とても実現できません。
多くのシステムが事業部門ごと、工程ごとに構築されており、それぞれが独立して存在している状態で、その間のデータは連携ができない場合が多く存在します。例えば、連結子会社などで同じ製品でも製品コードが異なっていたり、同じパーツでも製造部門とアフターサービス部門でコードが異なっていたりするケースはよく見られます。これらのデータの移行やひも付けなどには膨大な人手の作業が使われています。
既存の業務だけであれば何とか人手作業で最適化されているかもしれませんが、今後IoT化により製品からのさまざまなデータが集められ、それを設計部門にフィードバックするというような場合に、手作業のデータ管理で本当に実現可能でしょうか。そういう意味で「企業をデジタル前提に変える」ということも「DX」の流れの中で取り組まなければならないことだと考えます。
ここで注意しなければならないのが、ITシステムの刷新が絶対必要条件かというとそうではないという点です。先述したようにデジタルを前提にした場合に変わるところに対してどう取り組むのかがDXで、ITシステムの刷新はそのために必要な基盤を整える役割です。DX後の世界でも、従来通りのモノづくりで対応できる市場なのであれば、そこにひも付くシステムは後回しにするということも十分可能なことだと考えます。「DXレポート」などでは、老朽化システムの保守費用の負荷が訴えられていますが、この辺りは企業の置かれている環境に応じて優先度を決めて取り組むべき領域だと考えます。
ここまで「製造業にとってのDX」の説明をしてきましたが、いかがだったでしょうか。DXは概念であくまでも明確な定義があるものではありません。しかし、IoTなどデジタル技術の進展により、世界中の企業がこの「前提を変える」動きに飛び込んできてます。その中で日本の製造業にとってもこのデジタル前提の世界に対してどういう立ち位置を取るのかということが求められているといえるでしょう。
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