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「人口減による経済停滞」は本当か? 自己実現型停滞から脱するために必要なもの「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(8)(5/5 ページ)

苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第8回は、日本の製造業にとっての大きな課題とされている「人口減少」について、ファクトを共有していきます。

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これから目指すべき「経済成長」とは

 今回は、経済規模と関係の深い「人口の変化」について取り上げてきました。その国の経済的な豊かさとは、「経済規模」ではなく、「1人当たりGDP」や「平均給与」「労働生産性」などの1人当たりの指標で測られるべきと思います。つまり、今後は各国とも人口が停滞したり減少していったりする中で、GDPなど経済全体の規模ではなく、1人当たりの指標の成長を目指すべきということになるのではないでしょうか。

 ただ、日本は世界3位の経済規模を誇りますが、1人当たりの指標では先進国で中位です。しかも成長が当然の世界の中で、唯一停滞が続く国ですので、このままだと今まで日本よりも貧しかった国にも追い抜かれていき、もはや先進国とも呼べないほどに落ちぶれてしまう可能性もあります。

 日本の経済停滞に対して良く言われるのが「日本は少子高齢化で人口が増加しないから経済成長できない」という意見です。なぜ「人口が増加しないと経済成長できない」という見方が強いのでしょうか。もちろん「安全保障」や特定の先端分野での「技術開発力」などの側面では、ある程度以上の人口や経済規模を維持することが必要であることはいうまでもありませんが、ここまで見てきたように人口減少していても経済成長を続けている国が存在していることは事実です。

 この要因として、筆者は「規模の経済」に依拠した経済観から脱せていないからではないか、と考えます。

 多くの人々の中で、人口(=国内市場)が増加していくのであれば、少しずつ販売量の増加も見込めるので、経済規模を拡大していきやすいという経済観の前提があるのではないでしょうか。ただ、今後日本は先進国として世界に先駆けて人口が減っていく国です。今後はこのような経済の捉え方ではなく「適正な規模で適正な付加価値の提供」という経済観にいち早く転換していく必要があると思います。

 画一的なモノやサービスを大量に安価に生産して、大量に売買することだけを経済活動として考えるのならば、やはり日本国内は魅力のない市場になってきてしまいます。一方で、国内で日本人が生産した多様なモノやサービスを、同じ日本人が適正価格で消費していく社会というものも、グローバル経済と共存しながら実現していけるのではないかと考えます。

 筆者はこのように、主にグローバルビジネスなどの「規模の経済」と、主に国内中小企業を中心とした「多様性の経済」の双方でバランスを取った経済の在り方が、日本経済の停滞から脱する方向性ではないかと感じています。

日本経済は「自己実現的」に停滞

 日本は、そもそも内需の強い経済です。それが、いつの間にか経営者も労働者も消費者もグローバル経済の価値観にばかりとらわれ、より安く大量に生産し、安く大量に売りさばくという経済観が固定してしまったように思います。

 そして、最も大切な消費者でもある労働者をコストと見なすようになってしまいました。国内でこんなにも安いものがあふれているにもかかわらず、相変わらずより安く、大量に作って売る「規模の経済」を追い求めてばかりいます。

 経済活動は基本的に「代行業」として考えられます。つまり誰かの仕事は、それを消費する誰かのために行われています。労働者をコストと見なして、仕事を安くすると、結局は消費者の購買力が落ち、安いものしか売れなくなります。今の日本の状態は、まさにそれを裏付けているように感じているのです。

 さらに、労働者の賃金が低下すると、消費者の購買力が落ちるだけでなく、非婚化や少子化へとつながることも今回あらためて明らかになったのではないでしょうか。そして、企業は停滞する国内から、海外へ活路を求め、一層の国内経済の収縮を加速しています。つまり、自らで価値を下げるサイクルに落ち込んでいっているわけです。このように日本経済は「自己実現的」に停滞している状況にあると思います。

 日本経済の停滞は、人口の変化はもちろんですが、「企業の変質」も大きいと考えられます。次回からは「企業の変質とあるべき姿」についてファクトを共有していきたいと思います。

⇒前回(第7回)はこちら
⇒次回(第9回)はこちら
⇒本連載の目次はこちら
⇒製造マネジメントフォーラム過去連載一覧

筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

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 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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