「1DCAE」の考え方に基づくデライトデザイン:デライトデザイン入門(6)(3/3 ページ)
「デライトデザイン」について解説する連載。連載第6回では、「1DCAE」によるデライトデザインについて詳しく紹介する。まず、1DCAEについて3つのデザインとの関係を含めて説明。次に、デライトデザインに1DCAEを適用する手順について事例を交えて解説する。最後に、技術者に依存するところの大きい価値創出を支援する考え方を取り上げる。
価値創出を支援する考え方
価値を創出するに当たっては、“構造⇒機能⇒価値⇒コンセプト”の手順を経る必要がある。特に、価値からコンセプトを創出するプロセスは、技術者の発想に依存する部分が大きいため、これを支援する戦略、考え方があるとよい。
そこで、ここでは2つの考え方を紹介する。1つは、ブルーオーシャン戦略におけるアクションマトリクス(参考文献[3])である。ブルーオーシャンとは“競争のない世界”を意味し、多くの競争ある世界であるレッドオーシャンと対をなす。ブルーオーシャンを実現するにはいくつかの手法が提案されており、その1つがアクションマトリクスである。
図8は、原図を1DCAEの視点で追記修正している。アクションマトリクスは「取り除く(Eliminate)」「減らす(Reduce)」「増やす(Raise)」「付け加える(Create)」の4つのアクションで構成される。このうち、取り除く、減らすはリバース1DCAEで明らかとなる。図7の例でいうと、ドライヤーをリバース1DCAEするプロセスで「コードが邪魔」「重心位置が持ち手とずれていて使いにくい」ということが明らかとなり、この結果として、コードを“取り除く”、回転慣性を“減らす”というアクションが生まれた。ただ、この2つのアクションだけでは製品として成立しないので、1DCAEするプロセスでバッテリーを“付け加える”、意匠性を“増やす”というアクションをとった。
一方、評価項目の抜けがないかどうかをチェックする際に有用なのが、図9に示すAshbyのチェックリスト(参考文献[4])である。どのような状況で使用するのか(文脈)、機能、構造に加えて、使い勝手(持ちやすさのような物理的な使い勝手とスイッチなどの情報の伝達しやすさ)、美(見た目)が重要であることを示唆している。図7の例で意匠性にこだわったのは美に相当し、使い勝手に関しては重心と持ち手の一致(物理的使い勝手)だけでなく、スイッチの位置、大きさ(情報伝達しやすさ)にも配慮した。
参考文献:
- [3]チャン・キム、[新版]ブルー・オーシャン戦略——競争のない世界を創造する、日本語訳、ダイヤモンド社、2015
- [4]Michael F. Ashby, Materials Selection in Mechanical Design, Fifth Edition, Chapter 15: Materials and Industrial Design, Butterworth-Heinemann 2017
次回は、今回紹介した1DCAEによるデライトデザインについて、身近な製品をモチーフにより具体的に説明する。 (次回へ続く)
謝辞:
図7の一部は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものである。
筆者プロフィール:
大富浩一/山崎美稀/福江高志/井上全人(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。デライトデザインもその一つである。
- 研究会HP:https://1dcae.jp/
- 代表者アドレス:ohtomi@1dcae.jp
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