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愛する力を育むロボット「LOVOT」に命を吹き込むデザインの力【前編】プロダクトデザイナー 根津孝太氏に聞く(1/3 ページ)

GROOVE Xが満を持して発表した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。どうしても、その機能や性能に目が行きがちだが、LOVOTという“愛らしい存在”を創り出すデザインの力についても注目したい。LOVOTのデザインを担当したznug designの根津孝太氏に話を聞いた。

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 ロボットベンチャーのGROOVE Xが約3年の歳月をかけ、満を持して発表した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。2018年12月の発表以降、既に数多くのメディアにも取り上げられており、その存在、そして同社 代表取締役の林要氏の思いについては広く知られているところだろう(関連記事:LOVEをはぐくむロボット「LOVOT」は先端技術満載、デザインは根津孝太氏)。

 ロボットというと、どうしても機能や性能に目が行きがちだが、それらを含め、LOVOTという“愛らしい存在”を創り出すデザインの力についても注目したい。LOVOTのデザインに込められた思いとは? LOVOTの知られざる魅力について、プロダクトデザイナーとしてLOVOTのデザインを担当したznug design 取締役の根津孝太氏に話を聞いた。

「LOVOT」のデザインを担当したznug designの根津孝太氏
「LOVOT」のデザインを担当したznug designの根津孝太氏

 まず【前編】として、林氏と根津氏の出会い、LOVOT実現に欠かせない2つの要件、それらを両立させるためのデザインの難しさ、そして、根津氏のデザインアプローチなどについて取り上げる(⇒【後編】はこちら)。

【後編】では、機能とデザインのバランス、設計とデザインのせめぎ合いなどについて紹介する。

「LOVOT」に求めた2つの要件、実はデザイン的に両立の難しいものだった!?

――LOVOTのデザインで最も重要視したポイント、要件はどこでしょうか? プロジェクトへ参画する際、林さんとはどのような言葉を交わされたのでしょうか?

根津氏 林さんと初めてお会いしたとき、LOVOTで実現したいこととして挙げられたのは「抱っこできること」「(オーナーのそばに)駆け寄ってくること」の2つでした。

 まず「抱っこ」ですが、実際に触れ合うことで幸せな気持ちになる、愛着が湧くなど、人間にとってより良い状態が形成されることは、オキシトシンの効果として科学的にも証明されています。そのため、「抱っこできること」は外せない要件の1つとして突き詰めてきました。

 そして、もう1つの「駆け寄ってくること」ですが、皆さんも小さなお子さんやペットなどで経験があるかもしれませんが、名前を呼んだらすぐに駆け寄ってきて、そばに寄り添ってくれるのって、すごくうれしいことですよね。そして、そのまま抱き寄せる(抱っこする)というのは、とても自然な流れだと思います。

 LOVOTを実現する上で絶対に外せない要件として、この2つを重視してきました。これらは林さんと初めてお会いしたときから一切ぶれていないことでもあり、ここが揺るがなかったので私自身もデザインの仕事が非常にやりやすかったですね。そこがぶれぶれだと、「あっー!! もう!」ってなってしまうじゃないですか(笑)。

 でも、実は「抱っこできること」と「駆け寄ってくること」の2つを両立させることは、デザイン的に非常に難しいテーマでもあったんです。

 単に「抱っこ」だけであれば、ロボットの全身を柔らかいものにして、抱き心地だけを追求すれば実現できそうですが、「駆け寄ってくる」となると何らかの駆動部が必要になるわけです。LOVOTの場合、それがタイヤなのですが「タイヤが出た状態のままでLOVOTを抱っこしたら、どう感じるか……。そこの両立がポイントですよね」と、そんな話を林さんと初めてお会いした日に交わしたことをよく覚えています。

――そもそも、林さんとの出会いのきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

根津氏 当時、僕が入居していた「DMM.make AKIBA」に林さんが訪ねに来てくれたんです。ちょうど林さんがGROOVE Xを創業した2015年の暮れごろです。

 退職したタイミングは異なりますが、林さんと僕は同じトヨタ自動車出身で、最後に所属していた部署も車両ごとに製品を統括する「Z」と呼ばれるチームだったんです。で、林さんがトヨタ自動車を辞める際、「Zからトヨタを辞めた人間は過去に1人しかいない」と共通の上司であった奥平さん(現:ダイハツ工業 代表取締役社長 奥平総一郎氏)が僕のことを林さんに紹介してくださって、それが縁で訪ねて来てくれたんです。

名前を呼ぶと駆け寄ってくる「LOVOT」。愛らしい表情と動きがたまらない
名前を呼ぶと駆け寄ってくる「LOVOT」。愛らしい表情と動きがたまらない

 そして、先ほどの話につながるわけなんですが、初対面の際、林さんがイメージしていたLOVOTの大まかな“カタチ”についても見せてもらったんです。

 いわば、現在のLOVOTに注ぎ込まれているエッセンスは、全て林さんが思い描くものがベースとしてあるわけなんですが、唯一デザイナーとして、僕が変えさせてもらったものがあるんです。それは「お尻のカタチ」です。

 実は、林さんが当初イメージしていたLOVOTの姿は、地面に接する部分の形状がフラットで、安定感のあるフォルムをしていました。これに対し、僕は抱っこのしやすさ、抱き上げやすさを大切にしたいと思い、どうしても底面に丸みを持たせたかったんです。だから、「抱っこできること」「駆け寄ってくること」という絶対的な要件を実現するのであれば、「お尻は丸い方がよいかもしれませんね」と提案させてもらったんです。

共感した瞬間から頭の中でLOVOTのプロジェクトが動き出した

――根津さんというと、電動バイク「zecOO」やコンセプトカー「Camatte」、やわらかいクルマ「rimOnO」など“乗り物”のデザインの印象が強くあります。LOVOTのような“ロボット”にも何か特別な思い入れはあったのでしょうか?

根津氏 全くそんなことはなくて、これまで「ロボットだから」「乗り物だから」といった理由で、仕事を選ぶようなことは一切していません。僕が一番大切にしているのは、製品コンセプトやその製品を世に送り出したいと思っている方のビジョンに“共感できるか”なんです。

 LOVOTの場合、林さんと初めてお会いしたときからコンセプトやビジョンに共感でき、その瞬間から僕の頭の中でLOVOTのプロジェクトが動き出しました。だからすぐに「やらせてください!」とお願いしたんです。そういう意味で、僕は林さんとその時点で意気投合したと思っていますよ。林さんがどう思われているか分かりませんが(笑)。

「LOVOT MUSEUM」に展示されているカラフルなウェアをまとった「LOVOT」のぬいぐるみ。クリっとした目がかわいい
「LOVOT MUSEUM」に展示されているカラフルなウェアをまとった「LOVOT」のぬいぐるみ。クリっとした目がかわいい

 トヨタ自動車出身で、独立後もたくさん乗り物のプロジェクトを手掛けてきましたし、“乗り物”は自分の中でも非常に大切なものの1つです。ですが、それらが“乗り物”だからという理由でプロダクトを手掛けてきたわけではありません。例えば「rimOnO」なんかもそうですが、社会に対してメッセージを発信したいという思い、そのコンセプトやビジョンに共感できたから取り組んできたんです。今回のLOVOTも同じです。ロボットだからではなく、LOVOTという全く新しい存在が社会に投げ掛けられるメッセージは非常に大きなものだと共感したからこそ、「やりたい」「やらせてほしい」と思ったんです。

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