愛する力を育むロボット「LOVOT」に命を吹き込むデザインの力【前編】:プロダクトデザイナー 根津孝太氏に聞く(2/3 ページ)
GROOVE Xが満を持して発表した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。どうしても、その機能や性能に目が行きがちだが、LOVOTという“愛らしい存在”を創り出すデザインの力についても注目したい。LOVOTのデザインを担当したznug designの根津孝太氏に話を聞いた。
技術的な側面と感性的な側面、次元の異なるテーマを突き詰めていく
――「抱っこできること」「駆け寄ってくること」というLOVOTの絶対的な要件の両立をデザインする上で、根津さん自身が特に意識した点はどんなことでしょうか?
根津氏 まず、技術的な側面でいうと「タイヤの格納」は越えなければならないハードルの1つでした。先ほども話した通り、「抱っこできること」と「駆け寄ってくること」の2つを両立させることは、デザイン的に非常に難しいテーマなんです。「ここは技術的に難しくなるよね」というのは、林さんと出会った日から2人で話していたポイントでした。
一方、感性的な文脈として、そもそも「タイヤがある」ということを、(オーナーさんに)どう受け入れてもらえるのか? という思いはありました。何せ僕ら2人とも自動車メーカー出身なので、タイヤに対する違和感がないんですよね(笑)。
ただ、僕らとしては何か世の中にある他の生き物を模倣しようと考えているわけではなく、名前を呼んだら駆け寄ってきて、触れたら気持ちよくて、思わず抱き上げたくなる――。そういうこれまでにない新しいもの、できることなら新しい生き物を作りたいと思って取り組んできました。
そこが“かわいさ”を追求する理由にもつながってくるのですが、単に柔らかくて、駆け寄ってくるためのタイヤが付いていて、それが格納できるというだけでは、オーナーさんたちに受け入れてもらえるレベルには到達できません。
技術的な要件としての抱っこができることとタイヤが格納できることの両立、そして「で、それって本当にかわいいんだっけ?」という感性的な部分。この次元の異なる2つのテーマをどう突き詰めていくかが、LOVOTの実現において非常に重要なポイントでした。
――“かわいさ”の話が出ましたが、かわいいという感覚は人それぞれで、難しさがあるように感じます。かわいさの追求で心掛けてきたことは何でしょうか?
根津氏 確かにその通りですね。ただ、僕は1つだけ信じていることがあるんです。それは“たたずまい”なんです。別の言い方をすれば“かたまり感”です。
僕から提案させてもらった“お尻が丸い”というのは、「抱っこしてもらいたい」というLOVOT自身の意思の表れでもあるんです。そういうことを含め、かたまり感として、たたずまいとして、違和感なく、正しいものになっているか――。そこをとにかく大切に、とことん突き詰めました。
このように聞くと、かわいさの追求とは異なることを言っているように感じるかもしれませんが、そこを間違ってしまうと、目指すべきものに到達できないんです。例えば、大きさも重要な要素の1つで、サイズを含めて全体のかたまり感を突き詰めていかなければならないんです。実際、プロジェクトの途中で林さんが「よし、LOVOTの大きさを今の93%サイズにするぞ!」という大英断を下したことがありました。その時は皆焦りましたが、そういうことなんですね。
「違和感のなさ」って非常に消極的な言葉に聞こえるかもしれませんが、誰もが見て「そうだよね」と思えるような“違和感のないかたまり”をまず作れるかどうかが大切なんです。
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