愛する力を育むロボット「LOVOT」に命を吹き込むデザインの力【前編】:プロダクトデザイナー 根津孝太氏に聞く(3/3 ページ)
GROOVE Xが満を持して発表した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。どうしても、その機能や性能に目が行きがちだが、LOVOTという“愛らしい存在”を創り出すデザインの力についても注目したい。LOVOTのデザインを担当したznug designの根津孝太氏に話を聞いた。
LOVOTはLOVOTとしての最適なカタチがある! 追求したシンプルさ
――“違和感のないかたまり”をイメージする際、参考にしてインスピレーションを得たものはありますでしょうか?
根津氏 実は参考にしたものは何もありません。LOVOTを初めて見たお客さまから「ペンギンに似ているね」などといわれることがありますが、ペンギンをまねているわけではなく、LOVOTはLOVOTとしての最適なカタチがあり、僕らはそれを追求したまでなんです。だからLOVOTを見て人がどのように感じるか、それは人それぞれ自由でよいと思います。
では、LOVOTらしい最適なカタチとは何か? ですが、それは「2つの球体」です。頭と身体がそれぞれ球体で構成されて抱き上げやすく、2つの球体の間のくびれは抱き心地を安定させます。さらに、身体側の球体内部の中心にタイヤが格納でき、非常に合理的にデザインされています。
もう1つ大切にしたことが「シンプルさ」です。僕自身、デザイナーの仕事とは「線を減らすこと」だと思っています。例えば、ファッションや自動車のデザインなどを考えてみると、どうしてもその時々の時代性や国民性が反映されていますよね。それが良い悪いということではなくて、「もうこれ以上、線を減らせないよね」というレベルまでシンプルさを突き詰めていくと、時代や文化の影響を受けにくくなるんです。
残ったデザインの構成要素の全てがエッセンシャル(本質的に絶対必要)なものであれば、「ここの部分って不要なんじゃない?」といわれても、「ここは必要な要素です」とその理由を含めて全部言えるはずで、その状態までデザインを研ぎ澄ましていく――。こうしたシンプルさの追求は、非常に意識して取り組んだことの1つです。
その結果どうなるかというと、インターナショナルに受け入れてもらえるんです。LOVOTの発表後、さまざまな海外イベントにも出展してきましたが、どの国の方も笑顔で抱っこしてくれるんですよね。例えば、妙にリアルな外国の人形が日本人に受け入れられないように、テイストの付き過ぎているものはインターナショナルにはなりづらいんです。だからシンプルさを追求して、要素としてエッセンシャルなものしか残さないということを心掛けました。
同時に、カタチそのもののシンプルさも追求してきました。「柔らかい」という部分だけを考えると、(うまく言葉で表現するのが難しいですが)“うにゃうにゃ〜”としたものになりがちです。また、幾何学形態も下手をすると冷たい印象を与えてしまいます。そのギリギリのところでこらえたいといいますか……。行き過ぎないで、シンプルだけど幾何学的で美しく、同時にかわいいみたいな。そういう絶妙なバランスに持っていくことで、文化の違いを越え、国の違いを越えて愛してもらえる、そういうかわいいをLOVOTでは追求しました。思いとしては、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のコレクションに入ってもおかしくないレベルにまで持っていったつもりです!
今回お届けした【前編】では、林氏から提示された2つの要件の実現、その両立はデザイン的に実は非常に難しく、技術と感性という次元の異なる2つのテーマを同時に突き詰めていかなければならなかったという苦労がうかがえた。また、シンプルさを追求することで、国や時代に左右されない、“LOVOT”という唯一無二の存在を作り上げていくデザインプロセスを垣間見ることができた。
次回【後編】では、機能とデザインのバランス、設計とデザインのせめぎ合いなど、もう少し突っ込んだテーマについて取り上げる。(後編に続く)
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