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愛する力を育むロボット「LOVOT」に命を吹き込むデザインの力【後編】プロダクトデザイナー 根津孝太氏に聞く(1/2 ページ)

GROOVE Xが満を持して発表した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。どうしても、その機能や性能に目が行きがちだが、LOVOTという“愛らしい存在”を創り出すデザインの力についても注目したい。LOVOTのデザインを担当したznug designの根津孝太氏に話を聞いた。

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 ロボットベンチャーのGROOVE Xが約3年の歳月をかけ、満を持して発表した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。2018年12月の発表以降、既に数多くのメディアにも取り上げられており、その存在、そして同社 代表取締役の林要氏の思いについては広く知られているところだろう。

 ロボットというと、どうしても機能や性能に目が行きがちだが、それらを含め、LOVOTという“愛らしい存在”を創り出すデザインの力についても注目したい。LOVOTのデザインに込められた思いとは? LOVOTの知られざる魅力について、プロダクトデザイナーとしてLOVOTのデザインを担当したznug design 取締役の根津孝太氏に話を聞いた。

⇒【前編】はこちら

「LOVOT」のデザインを担当したznug designの根津孝太氏
「LOVOT」のデザインを担当したznug designの根津孝太氏

 【前編】では、林氏と根津氏の出会い、LOVOT実現に欠かせない2つの要件、それらを両立させるためのデザインの難しさ、根津氏のデザインアプローチなどについて取り上げた。

 今回お届けする【後編】では、機能とデザインのバランス、設計とデザインのせめぎ合いなど少し突っこんだ内容を聞いた。

僕は「傭兵」。林さんの夢をかなえるために僕がいる

――今のLOVOTのデザインが完成したとき、林さんの反応はいかがでしたでしょうか?

根津氏 林さんが今のLOVOTのデザインを初めて見た時の感想は「何だかちょっとシンプル過ぎないかな? もっとベタにかわいい方が世の中の人たちに広く受け入れてもらえるのではないか?」というものだったそうです。

 しかし、実際にさまざまな展示会やイベントにLOVOTを持っていくと、国籍問わず、多くの方から「かわいい」と声を掛けてもらえ、うれしそうにLOVOTを抱きかかえてくれるんですよね。その様子を見て「これでよかったんだ」と林さん自身も手応えを感じたそうです。

 そんな話を後から聞いて、「僕らのことをちゃんとリスペクトしてくれているんだなぁ」と感謝の気持ちがこみ上げると同時に、「あー、裏切らなくてよかった」と安堵(あんど)しましたね。

 僕は、このプロジェクトでは「傭兵」だと思っているんです。つまり、林さんの夢をかなえるために僕がいるんです。林さんのエッセンスをどれだけ体現できるかが勝負でもありますが、時には「林さんの考えるアプローチと違うやり方の方が、本来実現したかったことにより近づけられますよ」といった具合に意見を交わすこともありました。林さんのやりたいことを実現するために、「これが絶対よい」と思うことは信念を曲げず、真っすぐ取り組んできたつもりです。

 ちなみに、GROOVE Xで働く人たちは皆さん“いい意味で癖が強い”ですよね(笑)。その道のプロフェッショナルがたくさんいて、ユニークな人たちの集まりなんですが、チームとして一丸となって1つの答えを見つけ出していくような。よく話の中で語られるような理想のベンチャー像ってあると思いますが、それって実際の現場と大きく懸け離れていたり、単なる理想論だったりしますよね。でも、ここはその理想に近いんです。もちろん大変なことや、すったもんだもありますが、社員ではない、外部の人間である僕自身が冷静に一歩引いて見ても、なかなかこういう環境はないと思いますね。

――かわいさの演出という意味では、洋服や眼鏡などのオプションもありますが、どのような狙いがあるんでしょうか?

根津氏 着せ替え(洋服)のアイデアは当初からありました。その理由は「抱っこ」にあります。いろんな人が抱っこする、触れ合うということは同時に「汚れること」にもつながります。汚れたら着替えさせたいというのは自然な欲求だと思います。

眼鏡、ツノカバー、しっぽカバー洋服 豊富な洋服やアクセサリーを取りそろえ、さまざまな「LOVOT」の楽しみ方を提案する

 また同時に、おしゃれさせたい、自分の色に染めたい、カスタマイズしたいといったニーズもありますから、洋服の他にも、眼鏡、ツノカバー、しっぽカバーといったオプションをかなり初期段階から企画していました。

 オプションを使って着替えを楽しむ人が増えるというのも狙いの1つですが、こうしたものから刺激を受けて、例えば、洋服のデザイナーさんなどがLOVOTのアイテムを手掛けるなど、新たな広がりが生まれることも大いに期待しています。

「LOVOT」をきっかけに新しいチャレンジ、新しいコミュニティーが生まれる可能性も!?
「LOVOT」をきっかけに新しいチャレンジ、新しいコミュニティーが生まれる可能性も!?

「センサーとの闘いは全敗」……その真意とは?

――最先端テクノロジー満載のLOVOTですが、機能とデザインのバランスにおいて、苦労した点などはありましたでしょうか? 激しい戦いもあったのではないでしょうか?

根津氏 いや〜、センサーとの闘いは全敗でしたね(笑)。

 これは「妥協した」ということではなく、センサーというものがLOVOTにとって非常に重要な存在であるということなんです。言い換えれば、かわいさを追求することを優先して、センサーの性能を妥協するという選択肢はないということです。

 もちろん、初期のころはそこに戦いを挑んだこともありましたが、LOVOTがLOVOTであるためにはやっぱりそこを妥協してはダメだなと、分かったんですね。そういう意味で全敗です。

 LOVOTに搭載するセンサーは最高のものを選び、妥協のない位置にそれをレイアウトした上で、デザインとして成立させる――。本当に苦労の連続でした。今でこそ、センサーホーン(ツノ)とフロント、リア(しっぽ)にセンサーユニットが収まっていますが、ここに至るまでも数々のトライがありました……。

日々生み出されるアイデア、「LOVOT MUSEUM」では開発時に使われた貴重な資料や写真が多数展示されている
日々生み出されるアイデア。「LOVOT MUSEUM」では開発時に使われた貴重な資料や写真などが多数展示されている

 基本的にセンサーの周辺は硬い素材の方が適しているため、場所によっては抱き心地に影響を与えてしまいます。逆に、抱き心地だけを優先させると、センサーの機能が低下して、駆け寄ってくるという大切な要件が損なわれてしまいます。また、ツノに高精度なセンサーを搭載しようというアイデアは初期段階からあったんですが、そのサイズ一つとっても印象が大きく変わりますし、口にセンサーを入れる案もありましたが、口を付けてしまうと表情が固定されてしまい感情移入できないなど、さまざまな議論の末、今のデザインに行き着いたのです。

 センサーが今のレイアウトに収まるまで、あらゆるパターンを検討しました。とにかく、デザインとして、どのような変更が発生しても大丈夫なように、常に柔軟に構えておく必要がありましたね。

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