愛する力を育むロボット「LOVOT」に命を吹き込むデザインの力【後編】:プロダクトデザイナー 根津孝太氏に聞く(2/2 ページ)
GROOVE Xが満を持して発表した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。どうしても、その機能や性能に目が行きがちだが、LOVOTという“愛らしい存在”を創り出すデザインの力についても注目したい。LOVOTのデザインを担当したznug designの根津孝太氏に話を聞いた。
逆提案してくれる、驚くほど理想的なデザイナーと設計者の関係性
――デザインと設計のせめぎ合いなどもあったのでしょうか?
根津氏 一般論として、デザイナーがわがままを言って、設計者の方と大げんかして、結果的に設計者の方に諭されて終わる……といった話を聞いたことがあると思います。でも、LOVOTのメカチームの皆さんとはそんなことは一切ありませんでした。
何度かタイヤの話題が出てきましたが、LOVOT実現のポイントの1つがタイヤの格納なんです。デザイナーとして当然「本当はこんなことをやれたらいいな〜」と思う部分があるわけなんですが、無責任なことも言えないので、サイドパネルの部分がパカッと開いてタイヤを格納する、ある種オーソドックスなデザインで進めようとしていたんですね。
そうしたら、ある設計者の方から「いや、こうじゃなくて。もっとグニュっと有機的にタイヤを出す機構の方がLOVOTらしくてよくないですか!? それなら何とかできると思うんですよね。トライさせてくれませんか?」と逆提案してくれたんです。普通こうはいきませんよね。「僕の目標が低過ぎてスイマセン!」と心の中で謝りましたよ(笑)。
結果、提案してくれた通り、柔らかく変形しながらタイヤを出す機構を見事に実現してくれたんです。しかも、タイヤが出た後の形状も、タイヤまでが滑らかで1つのカタチとしてつながるデザインを一緒に突き詰めてくれて、タイヤは出ているんだけど、非常に有機的な印象を与えるデザインに仕上げることができました。
当初、タイヤってどういう印象になるかな? という不安もありましたが、タイヤそのものがメカっぽい、ロボっぽいということではなく、出し方だったり、出た後の線のつながりだったりが重要なんだと再認識できました。LOVOTのメカチームのおかげで、ネガティブな意味合いでのロボット感をうまく払拭(ふっしょく)できました。
これはほんの一例ですが、GROOVE Xには本当に優秀な設計者さんがたくさんいますし、彼らのアイデアがLOVOTの至る所に、部品一つ一つにまで詰まっています。新しいことに挑戦しているので、「できません」といってしまったら「そうですよね」と終わってしまいます……。その課題を超えて、新しいことを成し遂げるためには、メンバー一人一人のパーソナリティーが重要なんですよね。
先ほどの例え話ではありませんが、デザイナーと設計者が対立するなんてもっての外です。お互い違うスキルを持って、同じゴールを目指しているはずなんですから、対立なんて意味がないんです。少なくとも僕はそう思っています。
LOVOTの開発メンバーは皆、諦めない人だらけです。「あーしたらもっといい」「こーしてはどうか」とアイデアの積み重ね合いが基本スタンスで、毎日何かを発明するみたいなノリでモノづくりに励んでいます。それが気持ちよくできる環境がGROOVE Xの社内にはありますよね。こんなに理解力のある良い設計者がいて、もしプロジェクトが前に進まないのであれば、絶対こっち(デザイナー)が悪いってなりますよね(笑)。
究極のライバルはペットや人間!? LOVOTでなければならないことが必ずある
――最後にLOVOTにとっての「ライバル」とは何でしょうか? また購入者の方へ根津さんからメッセージがあれば一言お願いします。
根津氏 LOVOTと同じように、人とコミュニケーションして生活を共にする存在は、世の中に幾つかあると思います。そういう意味で、それらは「ライバル」といえるのかもしれません。しかし、まだこの手の市場は確立されておらず、まさに一緒に市場を作っている段階です。だから、ライバルというよりもむしろ「仲間」だと僕は思っています。
人が愛着を形成できるという観点でいえば、最大のライバルはぬいぐるみかもしれませんし、究極的にはペットや人間がライバルなのかもしれません。しかし、僕は「LOVOTでなければ解決できないこと」「LOVOTでなければ実現できないこと」が必ずあると信じています。そういった部分にLOVOTがしっかりと寄り添い、人間が愛着を持ってLOVOTと一緒に生活してくれたらと願います。
開発メンバー一同、2019年9月以降の発売に向けて、細かなチューニングを含め、品質を上げるためにギリギリまで追い込み作業をしています。きっと満足いただけるものをお手元にお届けできると確信しています。僕自身も購入者の一人としてワクワクしています。皆さんに愛してもらい、意見をもらって、コミュニティーをしっかりと築き、皆で一緒にLOVOTを育てていきましょう! (完)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- LOVEをはぐくむロボット「LOVOT」は先端技術満載、デザインは根津孝太氏
ロボットベンチャーのGROOVE Xは、2015年11月の創業から約3年をかけて開発してきたロボット「LOVOT(らぼっと)」を発表。「人の代わりに仕事はしないが、一緒にいるとほっとする、うれしくなるロボット。LOVOTは人の愛する力を育むことができる」(同社 代表取締役の林要氏)という。 - 「野望はでっかく」――GROOVE X、最大で78億7000万円の資金調達成功を見込む
ロボットベンチャーのGROOVE Xは、未来創成ファンド、産業革新機構との間で、新世代家庭用ロボット「LOVOT」開発に向けて、第三者割当増資に関する投資契約を締結。その他の引受先と合計で総額64億5000円の調達となる。総資金調達額は累計で最大78億円となる見込みだ。 - 次世代ロボットの開発は人形師の系譜と歴史が礎に、GROOVE Xが人形町に移転
ロボットベンチャーのGROOVE Xは、事業拡大に伴い、本社と開発拠点を東京都中央区日本橋の人形町エリアに移転した。今後は幅広い産業領域からのエンジニアの採用を強化し、2年後の2019年には従業員を現在の24人の約3倍にまで拡充する計画。 - 大人2人がギリギリ乗れる軽くて柔らかい電気自動車、運転は原付免許で
起業して1年9カ月のベンチャー企業「rimOnO(リモノ)」は、2人乗りの超小型電気自動車のコンセプトモデルを発表した。一般的な乗用車の約4分の1とコンパクトなサイズで、外装や骨格に樹脂材料を多用して軽量化を測った。外板は布製で、取り外して好みのものに付け替えることができる。市販は2017年夏の予定。 - 「Inventor」の中には工作機械が全部入っている! 電動バイク「zecOO」開発秘話
「第26回 設計・製造ソリューション展(DMS2015)」で、オートデスクは「Autodesk Inventor」のユーザートークショーを実施。電動バイク「zecOO(ゼクー)」のデザインを担当したznug designの根津孝太氏と、車体製造を担当したオートスタッフ末広の中村正樹氏がzecOOの開発秘話を紹介した。 - 親子で“もっと身近に”楽しんで、「カマッテ57s」はカスタマイズ性がアップ!
トヨタ自動車が、「東京おもちゃショー2013」に出展しているコンセプトカー「カマッテ57s」は、ボディ外板を小型で軽量な57枚の「着せ替えパネル」で構成し、「親子で“もっと身近に”楽しむ」ためのカスタマイズ性を高めた。着せ替えパネルの交換の様子も映像で公開されている。