アートシンキングで広がる「Society 5.0」:なぜモノづくり日本でアートシンキングなのか【前編】(1/2 ページ)
VUCA(ブーカ)の時代をさっそうと進む方法を「アートシンキング」の視点から読み解きます。
昨今の世界を取り巻く状況は、その変化の激しさから「VUCA(ブーカ)の時代」と呼ばれています。急激に変化する社会の中で、進むべき方向を見定めるためには、「オリジンベースドアートシンキング」の活用が有効です。
「なぜモノづくり日本でアートシンキングなのか」の【前編】では、“VUCAな現状”の洞察から始め、VUCAの時代の中で目指すべき1つの姿として、日本政府が掲げる「Society 5.0」を取り上げます。そして、Society 5.0の実現に向けた活動を有効に促進できる手法として、オリジンベースドアートシンキングを紹介します。
オリジンベースドアートシンキングで切り開けるVUCAの時代とは?
VUCAとは、
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
の4つのキーワードの頭文字を取ったものです。
VUCAの時代とはすなわち、何を目指し、何を指針として物事を進めればいいか、つかみ所のない状況といえます。このカオスな状況の中で、生き延びる方法として、さらに多くの情報が飛び交います。先行きの予測が難しい現代において、内閣府はSociety 5.0を日本のこれからのビジョンとして掲げています。
VUCAの時代における日本の指針「Society 5.0」とは?
Society 5.0のコンセプトは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムの構築です。経済発展と社会的課題の解決を両立させる、人間中心の社会(Society)を作り上げることを目標としています。
具体的には、あらゆる場所に組み込まれたIoT(モノのインターネット)機能を使用して、より多くのデータを収集します。取得したビッグデータを、AI(人工知能)を活用して分析し、新たな価値を創造するというものです。必要なときにリアルタイムで求めている情報を受け取れるように環境を整備することで、少子化や地方過疎化といった、閉塞(へいそく)感のある課題に対しての打開策を生み出し、一人一人が尊重し合いながら活躍できる社会の実現を目指します。
「Society 5.0」を進めていくための要素分解
IoTを活用してデータを取得するためには、最初に“プロセスの標準化”が行われます。すると、プロセスは効率化されますが、同時に“均一化”も進みます。均一化とは、言い換えれば“コモディティ化”であり、これがさらに進むと“価格競争”が生まれます。最先端技術を保持することは当然ながら競争力になりますが、コモディティ化へ陥りやすい枠組みの中においては、「ナンバーワン」という“1つしかない席”を奪い合う世界を回避するための工夫も必要です。
新元号である「令和」を英訳すると、“Beautiful Harmony”になります。これからの時代は個性同士が交差し、相乗効果を生み出し、その結果として新たな価値(=Harmony)が創出されていくことが望まれます。こうした時代では「ナンバーワンからオンリーワンへ」と価値観の転換が行われていくことになるでしょう。
次に考えたいことは、自社や自分の中にあるオンリーワンの価値の発見です。しかし、唯一無二の価値を探すための方法というのは、ほとんど体系化されておらず、そうしたものは世の中にあまり存在しません……。
実は、そんなときに大活躍する思考のフレームワークが、本記事の主役である“オリジンベースドアートシンキング(Origin Based Art Thinking)”なのです。
オリジンベースドアートシンキングとは?
では、オリジンベースドアートシンキングとは何でしょうか。一言でいえば、芸術家の製作課程を思考のプロセスとして体系化したものです。このフレームワークを使うことで、芸術家ではないビジネスサイドの人間でも、芸術家のように独創性を発揮し、代替できない感動を生み出していくことが可能になります。
芸術家は、唯一無二の哲学を表現します。そこから生まれる感動は、作品の受け取り手にとって新たな創造の源となり、インスピレーションの提供に大きく貢献します。
それでは、その唯一無二の哲学は、どこから生まれてくるのでしょうか?
それは、本記事で一番大切なエッセンスである、“オリジン”です。世界遺産であるサグラダファミリアを手掛けた建築界の巨匠、アントニオ・ガウディも、
独創性(オリジナリティー)とは、起源(オリジン)に戻ることである
という言葉を残しています。
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