「1DCAE」の考え方に基づくデライトデザイン:デライトデザイン入門(6)(2/3 ページ)
「デライトデザイン」について解説する連載。連載第6回では、「1DCAE」によるデライトデザインについて詳しく紹介する。まず、1DCAEについて3つのデザインとの関係を含めて説明。次に、デライトデザインに1DCAEを適用する手順について事例を交えて解説する。最後に、技術者に依存するところの大きい価値創出を支援する考え方を取り上げる。
3つのデザインと1DCAE
連載第2回で、3つのデザインを紹介した。1DCAEはマストデザイン、ベターデザイン、デライトデザインのいずれにも適用可能な考え方である。図4に、3つのデザインと1DCAEの関係を示す。すなわち、前半の狭義の1DCAEは、3つのデザインでその目的が異なることから、その方法も異なってくる。
マストデザインではリスク最小化が目的となるためリスクが、ベターデザインではコスト、開発期間、性能が評価対象となる。一方、デライトデザインでは、例えば、心地良さといったものが評価対象に挙げられる。これからデライトデザインの評価は、マストデザイン、ベターデザインに比べて曖昧性を含むため、これをいかに具体的に設定するかが課題となる。また、超安全なマストデザイン、従来よりも画期的に低コスト化できるベターデザインはある意味、デライトデザインの範疇(はんちゅう)に入れてもいいかもしれない。
デライトデザインを戦略的に行うための1DCAE
1DCAEは、機能からスタートすると述べた。しかし、いきなり機能から考えるのは容易ではない。そこで、図5に示すようにリバース1DCAE⇒1DCAEという手順をとることが一般的である。「リバース1DCAE」とは現製品を基に、“構造⇒機能⇒価値”を考えるプロセスである。実際に存在する製品を基に考えるため作業が進めやすい。価値から目指すべき製品のコンセプトを創出する。コンセプトが出てくれば、後は1DCAEの考え方にのっとって“機能⇒構造”へと価値(コンセプト)の具現化を行っていく。
1DCAEによるデライトデザイン
図5の手順で実施したデライトデザインの例を紹介する。ここで対象とするのはドライヤーである。実際のドライヤーを分解することにより構造を把握できる。この構造を階層的に表記すると図6の右部分となる。この構造を基に、今度はドライヤーの機能を階層的に表記すると図6の中央部分となる。機能とは、その構造が果たしている役割である。構造の最下層と機能の最下層は対応しているので、この関係を点線で示している。この機能と構造の関係は「機能・構造マップ」と呼ばれる。さらに、構造、機能から価値を考えたのが図6の左部分である。価値の各項目も機能の各項目と対応しているがここでは省略している。なお、上記とは逆に“価値⇒機能⇒構造”と展開していくのが「VE(Value Engineering:価値工学)」である。
図7は、図5に沿って実施したデライトデザインの例だ。図6の機能部分を評価可能なモデルとして表現したものが「機能1Dモデル」(現製品をベースとしたモデル)である。一方、「原理モデル」は原理のみを踏襲した現製品に依存しないモデルである。図6で示したようにドライヤーの価値は抽出できているが、これをさらに製品コンセプトとして具体化する必要がある。ここでは、“コードレスで持ち手と重心が一致した製品”をコンセプトとして設定し、これを1DCAEの考え方にのっとって“新機能⇒新構造”へと価値の具現化を実現した。バッテリー駆動とすることによりコードレス化を実現し、バッテリーを適切に配置することで、持ち手と製品の重心位置を一致させることができた。
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