日産自動車はいかにしてPLMを整備したのか:製造IT導入事例(2/2 ページ)
アラスジャパンは2021年4月20〜22日の3日間、年次イベントである「Aras Community Event(ACE 2021)」をオンラインで開催。その中で、日産自動車が「Aras Innovatorによるエンジニアリングプラットフォーム戦略及び活用事例」をテーマに事例講演を行った。本稿ではその内容を紹介する。
3社アライアンス強化でさらにPLMによる統合管理を進化
こうしたPLMへの取り組みも、3社によるアライアンス強化の方針で転機を迎える。2017年に「重点部門の機能統合を深化させる」という方針が示され、研究開発部門も機能統合の対象となった。車載ソフトウェアもそこに含まれた。その中で、小林氏の当時所属した部門には、日産自動車の車載ソフトウェア開発プロセスと、ルノーの車載開発プロセスを1つにまとめ、アライアンス車載ソフトウェア開発プロセスとして業務を推進する役割が与えられた。
日産自動車とルノーのIS部門はどちらかのシステムを中心にして統合し、グローバルで連携できる体制とすることが求められた。ただ、両社では「それぞれ互いの独立性を尊重する」という関係性であり、その中でプロセスを統合するのは一筋縄にはいかなかった。「当時は、何度もフランスに出張し、激しい論議を交わした」(根本氏)。
しかし、議論の結果、最終的には日産自動車のPLMをベースに「アライアンスPLM」を構築することになった。日産自動車のPLMが選ばれたのはプロセス統合で発生した「グローバル・大規模な組織対応」「異なるソフトウェア構成の統合」「パートナーが持つシステムとの連携」という重要な3つの業務要件への対応が容易に行えるという点が評価を受けてのものだった。
「アライアンスPLM」の主な特徴について、小林氏は以下の3つの点を挙げている。
- 制御ソフト開発全体をカバーするPLMツールとしてAras Innovatorを使用
- 各工程の成果物をAras Innovatorにストックし、また互いにリンクすることでトレーサビリティーを確保(要求、機能、検証)
- 工程順守および進捗管理のためステータスによる工程管理が可能
日産自動車ではこれらの成功体験をベースに、さらに将来に向け、設計開発環境の強化を進めている。ポイントは「マルチドメインプラットフォームへの対応」である。背景には自動車搭載技術の高度化により、設計開発に専門ITツールが必要になる場合が増えているということがある。ツールの活用が増える一方でこれらのデータは個々で管理が行われている状況で、システムとしての一元的な管理ができない状況が新たに生まれている。「これにはマルチドメインの構成管理が課題であると把握している」(根本氏)。
複雑化した技術の品質管理や、ISOなどの国際規格への適合、各国のレギュレーションに効率的に対応するためには、ドメインごとの管理では難しくなってきている。こうした中で、日産自動車ではマルチドメイン用管理が行えるプラットフォームの開発に新たに着手した。まず、各設計領域における部品、システム、ネットワーク、ソフトウェアなどの構成情報をAras Innovatorに取り込む機能を構築している。また、取り込んだ各設計領域の異なる構成情報を業務の目的別につなぎ合わせるマルチドメイン用の構成管理領域を構築中だ。こうして作り上げた構成管理領域を活用しエンジニアリング領域全域に適用することで、エンジニアが必要な情報をいつでもPLMから引き出して使えるようなプラットフォームの完成を目指しているという。
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