日産自動車はいかにしてPLMを整備したのか:製造IT導入事例(1/2 ページ)
アラスジャパンは2021年4月20〜22日の3日間、年次イベントである「Aras Community Event(ACE 2021)」をオンラインで開催。その中で、日産自動車が「Aras Innovatorによるエンジニアリングプラットフォーム戦略及び活用事例」をテーマに事例講演を行った。本稿ではその内容を紹介する。
アラスジャパンは2021年4月20〜22日の3日間、年次イベントである「Aras Community Event(ACE 2021)」をオンラインで開催した。その中で、日産自動車 グローバルISデリバリー本部 エンジニアリング&デザインシステム部 課長代理職の根本博明氏と同パワートレイン・EV技術開発本部 パワートレイン・EV制御技術開発部 EMS制御技術開発グループ ソフトウェアエキスパートの小林秀明氏が「Aras Innovatorによるエンジニアリングプラットフォーム戦略および活用事例」をテーマに事例講演を行った。本稿ではその内容を紹介する。
急速に増える車載ソフトウェアのボリュームをどう管理するか
日産自動車はルノー(仏)、三菱自動車と戦略的なアライアンスパートナーシップを構築している。2023年をゴールとした事業構造改革計画「NISSAN NEXT」では、先進運転技術として、先進運転支援システム「プロパイロット」搭載車の販売台数を2023年までに150万台とする計画である。電動化では2023年度までに年間100万台以上の電動化技術搭載車の販売を目指している。
これらの先進技術を支えているのは車載ソフトウェアであり、日産の先進技術「NISSAN INTELLIGENT MOBILITY」の数々はソフトウェア技術の進展なしには実現できなかったという。搭載技術の高度化により、自動車開発におけるソフトウェアのボリュームは急速な勢いで増えており、自動車1台のソースコードは既に1億行を超えているという。このソースコードの量は、OSであるWindowsやAndroid、戦闘機のF35などを上回るものとなっている。このように増え続けるソフトウェアを効果的に管理することへの重要度も高まっている。
日産自動車 グローバルIS/ITは、「NISSAN NEXT」を支える中期デジタル戦略「NISSAN DIGITAL NEXT」を展開中だ。製造、生産、販売を行う全ての事業部門が利用するITサービスを一手に引き受け、事業部門に最適なIT環境を提供することで顧客へ提供する商品の価値を最大化させることを目指している。
日産自動車では、2012年に車載ソフトウェア開発部門向けの情報管理基盤(PLM)の開発WGを発足させた。根本氏によると当時の悩みは「ソフトウェア開発部門の要件はかなり難しく、業界の変化とともに業務の要件が変わっていく」というものだった。その中で、これらのソフトウェアの管理で既存のパッケージ製品の活用を検討したが、「そのままで使うのは難しかった」と根本氏は語る。
また、ユーザー数が多くそもそもの要件を定義することが非常に難しいという問題もあった。さらに車載ソフトウェアの開発には、設計から検証までさまざまなツールがあるが、それぞれの管理がバラバラで行われていた。こうした前提条件をベースにさまざまなPLMシステムの採用を検討したところ、最終的にArasが提供するPLMプラットフォーム「Aras Innovator」を採用することに決めたという。「決め手となったのは『作りやすい』『握りやすい』『つなぎやすい』という3つの特徴だった」(根本氏)。
2013年にはAras Innovatorを正式に車載ソフトウェア開発用管理プラットフォームとして採用した。Aras Innovatorをベースとし、当時課題だった複数の管理システムの多重管理を解消するシステムを構築できたことでPLMはついに完成した。2013年以前の日産自動車の設計環境は、役割ごとにシステム、管理台帳が存在するなど、設計情報がつながっていない状態だった。それが、同年以降はプロセスデータをAras Innovatorで統合管理することで、情報が一元管理でき、無駄な情報管理工数の排除を実現した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.