「人中心の自動化工場」を描く安川電機、物理面と制御面の柔軟性がカギ:日本モノづくりワールド(2/2 ページ)
日本ものづくりワールドの特別講演として、安川電機 取締役 常務執行役員 ロボット事業部長の小川昌寛氏が登壇。「ロボットの進化とデータドリブンによる自律分散型のモノづくりの実現 」をテーマに、生産現場で創出されるデータの活用によるソリューション技術の広がりや、デジタルツインの構造化によるさらなる進化について紹介した。
物理的な柔軟性と制御面での柔軟性を高める
これらの取り組みを促進するため、2017年に同社は工場の生産性や品質を向上させる新たな自動化コンセプト「i3-Mechatronics」を打ち出した。3つのiは「integrated(統合的に)」「intelligent(知能的に)」「innovative(革新的に)」の頭文字であり、小川氏によると「このiの順番が重要になっている」と強調する。
オートメーション技術にデータ活用の重要性を高めていくことを基軸に、生産現場のインテグレーションにより生まれたリアルなデータに基づき認識した知見を蓄積しながら、それを使ってさらにイノベーションを重ねていく状態がこの「i3-Mechatronics」の目指すゴールである。「これらのさまざまな課題に対しての答えがinnovativeな状態を作る。オートメーションとデータを活用して知見を深めていくことにより、技術革新を行い課題を解決していく」と小川氏は語っている。
これらの理想を描く一方で、現状を振り返ってみると、多品種や変量性という製造現場の課題に対して、的確なソリューションが用意されていないという課題がある。こうした課題に対する解決策の1つが、先述した人協働ロボットだという考えだ。さらに、変量性に対しては自律分散というソリューションを提案している。
多品種で生産量が常に変動する生産を実現するには、データとオートメーションという「i3-Mechatronics」のコンセプトをベースに、柵のない人協働ロボットのような製造現場で物理的な柔軟性を与える機器を増やしていくということが1つの解決策となる。加えて、制御のフレキシビリティを実現することが必要で、それが集中から自律分散へという情報処理のエッジ化への取り組みだ。
この自律分散を構造化するために、同社では「YRMコントローラ(仮称)」を製品化する。「YRMコントローラ(仮称)」は、PLCやロボットコントローラー、マシンコントローラーなどの制御機能を組み込むことができる「統合型制御機器」としての役割を果たす一方で、これらのコントローラーで統括する製造ラインの情報にタイムスタンプを与えて上位システムにデータを受け渡す「データ整理機器」としての役割を果たす。
これらで整理されたデータを集め、分析につなげるプラットフォームとしては「YASKAWA Cockpit」(YCP)を用意している。生産現場の設備や装置をYCPに接続することにより、必要なデータを収集、蓄積し一元管理することが可能だ。また、生産現場の状態監視・診断、故障予知、機器の異常診断、品質不良検出など、データを活用したソリューションで顧客のモノづくりの進化をサポートする。この他、デジタルツインで製造セルの様子を把握しシミュレーションを行えるエンジニアリングツール「セルシミュレータ」など、データを活用する製品群の充実を図る考えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 安川電機は「アイキューブ メカトロニクス」で何を実現し、何を実現しないのか
IoT活用によるスマートファクトリーが大きな注目を見せる中、安川電機は2017年10月に一連の取り組みを再編成した「アイキューブ メカトロニクス」を発表した。全世界的に製造現場のスマート化が進む中で、安川電機が目指すものとは何なのだろうか。同社執行役員 CTOで技術部長の善家充彦氏に話を聞いた。 - 「アンマンドファクトリ」の進化を図る安川電機、スマート工場の新コンセプト訴求
安川電機は、同社が展開するスマート工場の新コンセプトとして「アイキューブ メカトロニクス」を新たに発表した。 - データを世界の共通言語に、リアルタイムで製品収益を見える化する安川電機のDX
「データを世界の共通言語に」をスローガンとし「YDX(YASKAWA digital transformation)」として独自のデジタル変革(DX)を進めているのが、産業用ロボットやモーターなどメカトロニクスの大手企業である安川電機である。安川電機 代表取締役社長の小笠原浩氏に「YDX」の狙いについて話を聞いた。 - スマート工場は“分断”が課題、カギは「データ取得」を前提としたツールの充実
工場のスマート化への取り組みは2020年も広がりを見せているが、成果を生み出せているところはまだまだ少ない状況だ。その中で、先行企業と停滞企業の“分断”が進んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対応なども含めて2021年もスマート工場化への取り組みは加速する見込みだが、この“分断”を解消するような動きが広がる見込みだ。 - スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。 - エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。 - 工場自動化のホワイトスペースを狙え、主戦場は「搬送」と「検査」か
労働力不足が加速する中、人手がかかる作業を低減し省力化を目的とした「自動化」への関心が高まっている。製造現場では以前から「自動化」が進んでいるが、2019年は従来の空白地域の自動化が大きく加速する見込みだ。具体的には「搬送」と「検査」の自動化が広がる。