コロナ禍対策や電動化対策も解決策はスマート工場化、三菱自動車の取り組み:スマート工場EXPO(2/2 ページ)
スマート工場・スマート物流を実現するためのIoT(モノのインターネット)ソリューション、AI(人工知能)、FA(ファクトリーオートメーション)/ロボットなどの最新技術を紹介する「第5回 スマート工場 EXPO〜IoT/AI/FAによる製造革新展〜」(2021年1月20〜22日、東京ビッグサイト)の特別講演では、三菱自動車 水島製作所長の北尾光教氏が登壇。「With&Postコロナのものづくり競争力強化〜三菱自動車水島製作所の取組み〜」をテーマに、水島製作所の取り組みを紹介した。
「見える化」「つながる化」「リアルタイム化」がポイント
水島製作所のスマート工場化への取り組みは、「見える化」「つながる化」「リアルタイム化」などをポイントとしている。
「生産ラインの見える化」は、生産稼働設備をリアルタイムでモニタリングできるように改善した。その中で、溶接ロボットの減速機の故障が多いことが把握できたため、これを予測できるようにデータ収集を進めている。データは振動、電流などを計測し分析をしてきたが、最終的にはその中から電流値を選択した。これをモニタリングしたところ異常値が検出できるようになり、実際にギアの劣化などを見つけ出すことができたという。ただ、安定的に運用を進めていくためには「閾値の決め方が重要だ。最適な設定をどうするかは各製品や現場の状況によって異なる」(北尾氏)という。
音声認識による作業の効率化も進めている。従来は手書きしていたものを、今はモバイル端末に音声入力するとそれが反映され、それが閾値内あるかどうかを自動で判定する仕組みとなっている。現場の作業者はタブレット端末を持ち、必要な情報を撮影して事務所に送ったり、事務所からは図面を送ったりして効率化を図っている。
「リアルタイムオートガイダンス」「オートクオリティーチェック」では、モニターを使って部品を決め、その部品を取り付け、写真を撮ると適切ならばモニターからOKが出るようになっており、人に頼らない品質確保を実現した。
さらに、品質管理では一元管理体制の構築に取り組む。自動車生産は部品生産から完成車に至るまでのプロセスが長く、部品点数も3〜4万点に上る。そのため素材、プロセス、設備状況を一元的に管理する「一気通貫の品質管理」が重要となる。水島製作所では板金部品を一枚一枚にIDタグをレーザーで書き込み個別認識を行うところからトレーサビリティーを開始する。完成車では最終工程で検査を実施し、その結果は10年間保管することが義務付けられている。そのため、同社では品質検査結果を直接モバイル端末に書き込むことで、品質管理のオンライン入力とリアルタイム共有を進めてきた。
ゲートカメラによるキズ防止にも取り組む。自動車1台を完成し、出荷するには1000人以上が関わる。すりキズなどが発見された場合、ゲートカメラ55台、作業観察カメラ99台の映像情報を活用し、原因究明を進められるようにした。この結果、これによりキズ発生率は大きく低下した。
鋳造工場の再構築についてもスマート化を進めて、品質生産性の改善を進めている。大型モーターについては、振動データを取り故障診断を行っている。診断していると破損部位で周波数が変わることが分かり、その数値を見ながら分析したという。この他「ラクラク搬送台車」や、従来3人で行っていた軽自動車のスライドドアの取り外しを一人で行える工夫を凝らしている。
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