スマート工場化で生産性7倍、設備稼働率1.5倍にした京セラの取り組み:スマート工場EXPO(2/2 ページ)
「第5回 スマート工場 EXPO〜IoT/AI/FAによる製造革新展〜」の特別講演に京セラ デジタルビジネス推進本部 Dx推進センター長の前田岳志氏が登壇。「ものづくり現場の改革〜データ活用とデジタルトランスフォーメーション〜」をテーマに、自律化ライン構築や業務改革などのモノづくり現場のスマート化事例と、そこで得た知見から目指す姿を紹介した。
生産性7倍、設備稼働率1.5倍にできた川内工場
スマートファクトリーのモデルラインの構築について、川内工場の事例を見ると、データ活用基盤をフルに使用し、スケジューラーや設備系を制御するMES(製造実行システム)を使用した最適化、自律制御を実現している。最適化は基本的にソーター(自動倉庫)を中心に、オペレーターが入出庫の信号をソーターに送り、ソーターからそのセルに必要な部材を送り出し、AGV(無人搬送車)がその部材を工程に自動的に運び入れるような仕組みとなっている。
工程間の搬送なども含めて、デジタルプラットフォームとの間で相互にやりとりを行い、全て自動化、自律化を実現した。「それにより労働生産性は7倍になり、設備稼働率も1.5倍に向上した1つの事例となっている」(前田氏)。
また、1つのセルの中に加工と同時に、加工した直後に寸法を測る計測器が同じく併設されている。自律制御により、これを上位のデジタルプラットフォームと通信し、そこから加工条件の制御指示が常時送られることで不良をなくし、工程内歩留り100%を達成した。さらにソーター、各設備、AGVに加えてオペレーターからの各情報をデジタルプラットフォームに吸い上げて、ダッシュボードに表示をする。この見える化により、オペレーター自身に気付きを与えて行動変容につなげるなどの取り組みを行っている。
ファインセラミックスには原料、成形、切削、焼成、研削、検査など一連の製造工程がある。セラミックスの加工は焼成工程において、寸法で約20%前後、体積で約半分に縮む。この寸法の変化率を従来はテストピースを使って実際に焼成炉に入れて、その前後の寸法比率によって収縮率を求めていた。その収集率を基に作図し、その結果からNCプログラムを作る。それを全て設計者・技術者が約10日間かけて行っていた。
スマートモデルラインでは、過去のさまざまな条件、環境場の条件などをデジタルプラットフォームに上げて、寸法の収縮を予測するモデルを作り上げた。それにより先行テストを行わなくても原料の特性と環境場の温湿度で、原料ロットの収縮率を予測する。同時に自動作図のプログラムが動いており、そこと連携し自動的に焼成前の寸法図面に書き直し、CAD/CAMを使ってNCプログラムを自動作成する。原料の出荷検査のデータがあれば、切削のプログラムまでが自動的にできるという仕組みとなっている。
さらに、焼成炉に焼成前の製品をオペレーターが配置する作業(さや詰め)を従来はカンとコツにより行っていたが、今では最も細密に最大容量配置できるようコンピュータが計算し、オペレーターに指示を出す仕組みも運用されている。さらにスケジューラーにより、人、モノ、設備という3つのリソースの最適計画を常時繰り返すことにより、仕掛りは4分の3に減少した。
前田氏は「製造業がデータ活用するには統制データ、プロセスデータ、検査データの3つが必要であり、さらに、それらを同じIDでつなぐことが重要となる」と述べる。さらに、今回のモデルラインを通じて学んだこととして「個別最適を生かしつつ全体最適にもっていく」「短期間で成果を求めずに未来の投資と考える」「現場の腹落ち(納得すること、成程と思うこと)」の3つを挙げている。
今後、京セラが目標とするDX(デジタルトランスフォーメーション)については「創造的業務へ」「人の無限の能力を引き出す」「若手台頭による自由闊達な風土の醸成」と3つのポイントを訴えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 完全自動化で生産ラインの人員9割減、京セラが目指す生産競争力
京セラドキュメントソリューションズは、トナーのマザー工場である三重県の玉城工場において、完全自動化生産を実現している。ポイントになったのは各工程間のサブアッシーや検査の自動化だ。生産ラインに必要な人員を10分の1にできた同ラインを取材した。 - 売上高2兆円を目指す京セラ、工場のスマート化で生産性倍増目指す
京セラは東京都内で2016年度業績と2017年度の経営方針について説明した。 - 「アメーバ経営」とは何か
グローバル競争の激化により多くの日系製造業が苦しむ中、にわかに注目を浴びているのが「アメーバ経営」だ。京セラをグローバル企業に押し上げ、会社更生法適用となったJALを復活させた原動力は何だったのか。本連載では、「アメーバ経営とは何か」を解説するとともに、その効果を示す事例としてJAL整備工場での変化について紹介する。第1回となる今回は「アメーバ経営」そのものを紹介する。 - スマート工場は“分断”が課題、カギは「データ取得」を前提としたツールの充実
工場のスマート化への取り組みは2020年も広がりを見せているが、成果を生み出せているところはまだまだ少ない状況だ。その中で、先行企業と停滞企業の“分断”が進んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対応なども含めて2021年もスマート工場化への取り組みは加速する見込みだが、この“分断”を解消するような動きが広がる見込みだ。 - スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。 - エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。 - 工場自動化のホワイトスペースを狙え、主戦場は「搬送」と「検査」か
労働力不足が加速する中、人手がかかる作業を低減し省力化を目的とした「自動化」への関心が高まっている。製造現場では以前から「自動化」が進んでいるが、2019年は従来の空白地域の自動化が大きく加速する見込みだ。具体的には「搬送」と「検査」の自動化が広がる。