リアルな意見がメーカーの“次の一手”に、体験型店舗「b8ta」の可能性:スマートリテール(2/2 ページ)
2020年8月、東京に米国発の体験型小売店舗「b8ta(ベータ)」がオープンした。「RaaS(Retail as a Service)」とも呼ばれる体験型小売店舗の取り組みは、顧客とのタッチポイント創出に悩むメーカーにとって注目に値する。ベータ・ジャパンの担当者に、体験型小売店舗の可能性について話を聞いた。
「製品を買いたくない人」の意見はなぜ大事か
定量データに加えて、b8taのスタッフが来店客とコミュニケーションを取る中で得た製品への感想などの定性データも取得する。内容のポジティブさやネガティブさにかかわらず、集めた感想はメーカーへと随時フィードバックしていく。
春山氏はb8taで定性データを収集するメリットの1つに、「『製品を買わなかった人』に、その理由をヒアリングできること」があると説明する。
例えば、b8taで展示中の、着用者の摂取カロリーなどを計測するスマートウォッチ「GoBe3(ゴービースリー)」は、リリース直後に大きな話題を集めて売れ行きも好調だったが、時間の経過につれて次第に人気が落ち着いてきてしまった。GoBe3の開発元であるHEALBE(ハルビー)は“次の一手”となり得る手段を模索していたが、その過程で役立ったのが、b8taで収集した、製品のカラーリングに関する来店客の意見だったという。
「b8taのスタッフに購入したいかと問われて『買わない』とした来店客の内、女性客からは『もう少しおしゃれな色が欲しい』、男性客からは『カーキやモスグリーンなどミリタリーカラーの製品が欲しい』という意見が上がってきた。そこでHEALBEは新たなカラーリングの製品をラインアップに加えようとしている。『製品を買わなかった人』に意見を求めるのは通常の小売店舗やECサイトでは難しい。しかし、こうした意見はプロダクト・ライフサイクルをうまく伸ばし、また、既存製品で得た知見を新製品へとつないでアップデートしていく上で役に立つ」(春山氏)
“作る”だけでなく“売る”視点を
b8taはコロナ禍の最中に開店することとなった。その中でも、来店客の反応からは、コロナ禍であっても実物の製品に直接触れて確かめたいというニーズは衰えていない様子が伺えるという。
「ECサイトは手軽に出品できるが、一度自分で手に取って試さないと購入しないという、一定数いる消費者にリーチしづらい。ただ、先に述べた通りリアル店舗は出店に多額のコストがかかる。スタートアップを始め、資金力に余裕がないメーカーにとっては悩ましい問題だが、そこに低コストでタッチポイントを提供できるb8taの存在意義が出てくる」(春山氏)
また、春山氏は定性データなどを活用した細かな製品アップデートの重要性を指摘した。
「実はb8taの出展企業の中には、フィードバックをしても特にレスポンスがない、“置きっぱなし”のケースもある。正直、これではもったいない。反対に、士気の高い社内ベンチャーのような担当者は1週間ごとに来店し、状況を聞く。もちろん、1週間で顧客からのフィードバックが激変することはない。ただ、現状のスコアが10の商品を15、20と細かくアップデートできるよう取り組む姿勢はメーカーにとって必要なように思う。良い製品を作ればいい、というだけではなく、いかに売れる製品を開発するかという視点まで持つことが大事だ」(春山氏)
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