日本版の「Amazon Go」は普及するのか、問われるAIカメラの“価値”と“コスト”:MONOist 2021年展望(1/2 ページ)
リテール分野にAIを活用する動きが広まっている。その中でも本稿は、AIカメラを用いた無人決済システム実現に向けた取り組みを取り上げ、2020年のニュースを振り返りつつ今後の展開を考えていく。
AI(人工知能)カメラが製造業をはじめとした各産業分野で大きな注目を集めている。2020年を通じて、メーカーやベンダーはAIカメラのPoC(概念実証)に関するいくつもの事例を報告した。PoCを通じてAIカメラの有用性を証明する事例が積み重なっていけば、それに従って、実際の作業現場での導入も本格化していくと予想される。
とりわけAIカメラ導入に積極的な姿勢を見せるのがスーパーマーケットやドラッグストアなどに代表されるリテール業界である。AIカメラが顧客分析の有力なツールになり得るからだ。店舗内の天井付近にAIカメラを設置し、陳列棚や顧客の行動、動線などを撮影する。これによって、欠品が生じた際の速やかな商品補充や、商品の売れ行きや顧客動線のデータ分析を通じた売り上げ増加施策の立案も可能になる。
無人決済システムの実現可能性
もう1つ、AIカメラ活用の方向性として注目したいのが、レジレスとなる無人決済システムの実現である。こうしたシステムを実際に導入した店舗事例として、真っ先に思い浮かぶのは、米国のアマゾン(Amazon.com)が展開する「Amazon Go」だろう。店内に入った顧客が陳列棚から商品を手に取ると、AIカメラが商品と顧客を自動で認識して両者をひも付ける。顧客が出口のゲートを通過すると、自動的に決済が行われる仕組みだ。Amazon Goと細部は異なるものの、類似のシステムを実現する無人決済ソリューションを提供する国内企業も出てきている。
国内リテール業界で店舗の無人決済化がどの程度広まるかは現時点では不透明だ。しかし、これまでに多くの企業が活発な取り組みを行っており、こうした流れは2021年においても継続するのではないかと思われる。ただ、レジレス関連企業の中にも、「AIカメラを通じてどのような価値を実現するか」という点を巡って、さまざまな相違があるように思われる。
商品のリアルタイム分析を行うZippin
ここからは日本国内におけるAIカメラを用いた無人決済システムの最新の取り組みを紹介していこう。
2020年12月、富士通はAIレジレスソリューションを世界中で展開する米国のスタートアップZippinとの本格的な協業開始を発表した。
ZippinのAIソリューションを導入した店舗では、顧客は気に入った商品を手にとり、出口ゲートを通過するだけで自動的に決済が完了する。店舗内の天井に配置したAIカメラや重量板を組み合わせて、商品の状態確認、顧客が手に取った商品のトラッキング、そして顧客の行動分析を行い、これによって、商品と顧客情報を正確にひも付ける。なお、AIカメラのカメラデバイスそのものは市販品を使っているという。
従来のZippinのソリューションは、専用スマートフォンアプリを使って本人確認を行う仕組みだった。しかし、協業によって富士通の顔認証技術と静脈認証技術と連携したことで、スマホを使わずに“手ぶら”で入退店や買い物を済ませられるようになった。
さらに富士通には、レジレス決済だけでなく、AIカメラを通じたデータ分析という付加価値を訴求する計画もあるようだ。富士通 リテールビジネス本部 DXビジネス事業部 シニアディレクターの石川裕美氏は「ECの台頭などを背景に、人々が小売店舗に求める役割も変わってきた。『ほしいものがより安価で、かつ身近な場所で手に入る』という店舗を実現する上では、売れ筋商品についてリアルタイムで販売状況を確認、分析して施策に反映する仕組みが必要となる。今後はバックヤードとの連携システムや、顧客の購入傾向に合わせてスマートフォンに商品のサジェストを送信する仕組みも開発していきたい」と語る。
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